哺乳類の性を決める遺伝子の仕組みとは?SRY遺伝子とその作用
前回の続きで、生物学的な「性」に関する生命科学のネタです。
前回は、性を決める遺伝子が染色体にあるところまで紹介しました。時代としては20世紀前半です。
ただ、この時点では具体的にどの遺伝子かまでは特定は難しく、それが初めて特定されたのは、1990年になってからです。意外に最近ですね。
XX染色体(メス)を持つ性腺原基(分化直前)に、ある遺伝子を注入すると、本来卵巣に分化するはずなのに精巣、つまりオスの器官に分化しました。
SRY遺伝子(Sex-determining region Y protein)と名付けられます。
ただ、このときに発見されたのはあくまで実験動物のマウスだけです。
その後に、人間含めた哺乳類でこのSRY遺伝子が確認されます。ということは、おそらくは性を持つ生物共通の遺伝子だろうと思われました。
ところが、それ以外(魚類・両生類・爬虫類・鳥類)にはないことが分かります。吉本新喜劇ではないですが、ずっこけてしまいそうな結果です。
現在もすべての生物で見つかったわけではないですが、哺乳類以外では、それぞれの種で異なる性決定遺伝子が確認されています。
なお、誤解を招かないように補足すると、生物のなかには、遺伝子以外で性が決定する仕組みも存在します。
有名な例として、ウミガメが挙げられます。なんと卵を取り巻く温度によって雌雄が決められるという嘘のような本当の話です。
こういった生物はいくつかあるようですが、今回は哺乳類でのSRY遺伝子の話に絞ります。
そもそも、このSRY遺伝子自体はどのようにして作用するのか?
つまり、スイッチのスイッチは何なのか?ということですね。
こちらについては、日本の研究グループが2013年に発表した成果を紹介します。
上記記事内の図を使って補足的に説明します。
そもそも、SRY遺伝子含む染色体をミクロで見ると、長い糸巻きのような形状です。糸に巻かれるほうがヒストン、糸に相当するのがDNAです。こちらのサイトの図が分かり易かったので張り付けます。
このDNAのどこかにSRY遺伝子があるわけですが、この遺伝子を活性化する役割をになっているのがJmjd1aという酵素の一種です。
このような遺伝子制御はSRY遺伝子に限らず一般的にしられており、エピジェネティクスと呼ばれます。関心ある方のために、過去の関連投稿を載せておきます。
次に、上記酵素から「活動していいよ」と指示を受けたSRY遺伝子の動きについてですが、日本の研究グループがマウスで全容解明しています。より詳しく知りたい方は下記サイトをお勧めします。
今回の話は、哺乳類の生命誕生直後(人間でいえば胎児)の話ですが、実はそれ以降でも「性」は揺らいでいくことが分かってきました。
ということで、次回は2つめの性決定因子「性ホルモン」について調べたことを綴ってみたいと思います。