サイエンスブレークスルー準優勝作品を眺める2
前回の続きです。
5.アルツハイマー病対策が少しずつ前進
米国の医薬品を規制する当局が、アルツハイマー向け薬に正式に許可を与えました。こちらは治すというよりは認知症の進行を遅らせる用途ですが、それでも希望にはつながります。
アルツハイマー病の現在の主要な考え方は、脳にベータアミロイドと呼ばれる絡み合ったタンパク質の塊が原因とされており、科学者らはこれを除去することが患者を助けるかどうか長年議論してきました。過去にもいくつかふれたので1つだけ過去記事を引用します。
今回許可された、新しい治療法であるレカネマブと呼ばれる抗体は、18カ月間の試験で、プラセボ(偽薬)と比較して認知機能の低下を27%遅らせる効果をあげました。
米国だけでなく日本でも承認され、投薬が始まっています。
しかしながら記事では、治療による脳の腫れや脳出血のリスクという側面にも言及しています。
APOE4と呼ばれる、アルツハイマー病の素因となる遺伝子変異を持つ人々は、特にこの副作用を起こしやすいです。こういった副作用との向き合い方も今後の課題として取り組まれていきますが、2023年は力強い一歩前進ではあります。
6.アメリカ大陸の初期の人々が受け入れに一歩ずつ近づいている
人類がアフリカに誕生して各大陸に渡っていきました。アメリカ大陸はベーリング海峡を16000年前に渡ったとされていましたが、その日付を5000年遡る可能性が起こりました。
メキシコの洞窟で見つかった石器が、解析の結果26000年前のものであることが判明しました。ただそれでも他に人間の活動の痕跡がみつからず懐疑的なままだったのですが、2021年に上記の明らかに人類と思われる足跡を発見しました。2.1万年から2.3万年前と推測されています。(こちら)
今回人類の歴史が書き換えられたことで、人類は氷河がまだカナダで形成されていた時代に渡ったことになります。派生的に、その評価が見直されるかもしれません。
7.巨大なブラックホールの合体の騒音が聞こえた
物質が動くと時空のさざ波ともいわれる重力波が発生します。あまりにも微小なので、アインシュタイン自身も観測不可能と断じましたが、2016年に初めて検出に成功しました。(即ノーベル賞確定です)
過去の重力波トピック記事を1つだけ載せておきます。
今回候補に選ばれたのは「背景重力波」ともいわれるもので、ブラックホール同士が特殊な条件で衝突したときに発生すると考えられていました。
それは、太陽の数百万倍、あるいは数十億倍もの重さの超大質量ブラックホール同士が連星となって存在する状態です。
科学者は、規則的に電波を発生するパルサーに着目して、過去15年間のデータ解析(特にノイズ除去)から今回の発見にやっと到達しました。
今年の日本メディアでの発表記事も載せておきます。
重力波天文学がこれから発展することを大きく期待されるトピックです。
8.若手科学者たちが立ち上がる
2022年の冬、カリフォルニア大学 (UC) システムの教職員 48,000 人が米国史上最大のストライキを実施し、大学院生とポスドクの大幅な昇給を勝ち取りました。
このような集団行動は米国が顕著ですが、カナダでは5月に全国の数千人の学術関係者が大学院生やポスドクに対する連邦資金の増額を求めて大規模な1日抗議活動を行い、ドイツでは、若手研究者らがポスドク契約の変更を求める運動を行いました
日本ではストライキ自体はまだ行われていますが、今回のようなパターンはまだ聞いたことがないです。
個人的には自身の体験から、同質の課題があると思っています。過去の関連記事をのせておきます。
どの分野でも新しい未来を創るのは若い方々です。できる限りこういった運動は応援したいです。
9.エクサスケール コンピューティングの夜明け
スーパーコンピュータの性能合戦で今年ついにエクススケールに到達しました。上図は史上初を達成したフロンティアというコンピュータです。
今回の準優勝作品でも触れた気象予測などですでに活躍しています。
それ以上は過去記事でも紹介したので、関心のある方はごらんください。
時系列での性能推移をみると、加速度的に高まっています。これは(技術的)シンギュラリティに符号した進化です。
今後もこの流れが続いたら、自然で行っているふるまいとの違いがより曖昧になってきます。逆に自然も深堀りすると結構デジタル(離散)的だったことも分かってきています。(遺伝子は最たるものですね)
デジタルと自然が交差していく未来がどうなっていくのか?
シンギュラリティという用語はそもそも「まったく予測不能な異常な状態」という意味合いですが、明るい未来だけは妄想していきたいと思います。