「量子のゆらぎ」が時空を生んだ?!
なかなか理解が難しいけどなぜか心をくすぐる1つが「量子ゆらぎ」というテーマです。
今でも多くの研究機関で取り上げられており、つい最近も理研が新しい研究成果を発表しています。
要は、
どんなに離れていてもお互い影響を及ぼす量子もつれ現象は、有限の温度では特殊条件以外では存在しないことを示した、
という話です。
量子もつれ現象は、我々の常識と相いれない不可思議な現象として知られいます。
超ざっくりいうと、どんなに離れていても相方の結果をうけて一瞬で作用が起こります。
過去に、その画像化に成功した記事を投稿したので興味を持った方は覗いてみてください。
ただ、その環境が絶対温度(どんな分子も振動できない最小温度で約マイナス273度)でないと、生じさせるのが難しいということを今回の研究では唱えています。
量子もつれ現象は、最近では量子コンピュータにも応用されており、産業への展開が期待されています。
実は、基礎研究でも、量子ゆらぎの解明が我々の世界観を大きく揺さぶる可能性もあります。
それは、「時空の起源」に絡むものです。
アインシュタインが確立した相対性理論で分かったことは、今まで独立かつ定常的と思い込んでいた「時空(時間と空間)」が、実は相互影響があり動的に変化するというものです。
ただ、今一歩踏み込むと、そもそも時空はなぜ存在しているのでしょうか?
相対性理論はそのありようを記述しており、そこまでには踏み込むことが出来ません。
今、時空の起源をたどる新しい試みが行われています。
以前にも紹介した、万物の理論有力候補の「超ひも理論」では、量子ゆらぎを含めた量子力学と相対性理論を融合していくものです。
上記記事にも途中で出ている、数学的な等価性(双対性と呼ばれます)が空間の創発に繋がっている、とする考えがあります。
マルダセナという科学者が、量子論から導かれる1つの理論(CFTと呼ばれます)と、一般相対性理論から導かれる1つの空間(AdSと呼ばれます)が、数学的に対応していることを明らかにしました。
数学的に対応しているからといって物理的に正しいとは言い切れません。
例えば、今でこそ存在が明らかなブラックホールも、結構長い間数学上の空想に過ぎないとあしらわれていたこともありました。(あのアインシュタインでさえ!)
そして今、この空間を創発するミッシングリンクが「量子もつれ」ではないか、という仮説が唱えられています。
たとえ話を使うと、3次元の球面に張り付いた2次元の表面があると思ってください。この表面内で「量子ゆらぎ」が起こり、それが球体内部の3次元に「空間」を創発する、というイメージです。
その度合いの強弱が、「距離」というわけです。
3次元と2次元と、異なる次元を行き来するたとえに戸惑うかもしれませんが、この考え方自体は「ホログラフィック原理」として確立されています。
我々が日常生活を営む箱にあたる「空間」が、実は「量子ゆらぎ」から生じていた。
もしこの仮説が正しいとすると、我々の世界観も結構影響を与えるかもしれません。
ただし、仮にこの仮説を採用しても「量子ゆらぎ」が生じる原因は分かりません。
物理現象を究極的に還元すると、意外にあいまいでうつろいやすいものなのかもしれません。
まずは量子コンピュータや通信などへの応用が先行されますが、ぜひ今回のような我々の世界(時空間)の起源にも大きく絡むテーマであることも知っていただけると幸いです。
(参考にした記事)日経サイエンス特集:時空の起源