とっつきにくいが気になるマルチバース宇宙論
科学は、仮説と検証を繰り返して前進し、たまに相対性理論のような革命的な理論が生まれます。
その理論が高度化・複雑化してくると、仮説を検証することが困難になり、そのなかでパッと思いつくのが「マルチバース宇宙論」です。
これは、ビッグバン同様メディアではやや恣意的に取り上げられてる印象を持ちます。(ビッグバンは宇宙の始まりを意味してつかうことも見かけます。ビッグバン直後にインフレーションが起こった、とか・・・)
以前にインフレーションについて触れました。
最後に触れている通り、原始重力波と呼ばれる痕跡を観測出来る可能性はあり、実際過去にも惜しいところまでいきました。(結果としては怪しいので×となりました)
このインフレーション理論自体は、検証可能性もあるため特段問題にされないのですが、ここから派生的に生まれた「マルチバース(多元)宇宙論」が、観測可能性が見出せないこともあり、今でもその言葉の混乱含めて議論が続いてるようです。
まず、インフレーション理論から生まれたものをイメージで紹介します。
インフレーションは、真空エネルギーに満ちたインフラトンの「(量子論が要請する)揺らぎ」によって生じた、とされています。
その膨張エネルギーが熱エネルギーにギアチェンジし、いわゆる「ビッグバン」になります。
で、この「揺らぎ」は1つでないといけない理由はなく、さながら泡のようにポコポコ多くのインフレーションが起こり、それぞれが宇宙を形成すると唱えられています。
今まであえて触れなかったこの宇宙の発端となった真空エネルギーですが、大まかに実観測され、また同時に理論的にも大まかに推計されています。
やっかいなのは、両者の値が120桁(ケタ!)も違っていることがわかります。これは誤差と呼ぶのはあまりにも大きすぎます。(といいますか、自然科学の現象で知る限り最大の乖離かもしれません・・・)
それに関連して、実測値があまりにも我々のおなじみの物質(原子・分子のイメージ)の密度に近すぎるのも大いなる謎です。
もう少し補足すると、真空エネルギー密度は、その性質上宇宙が膨張したとしても値は変わりません。
が、物質の密度は、宇宙膨張につれて希薄化、つまり低くなっていきます。
片方が同じ値、もう片方がどんどん膨張(時間的変化)とともに小さくなっているのに、今我々が生きているこの宇宙の時代でそれがたったの数倍しか違わないというのは、正直奇跡とすら感じます。
その謎を何とか解き明かそうとしているのが「マルチバース(多元)宇宙論」という考え方です。(他にもあるかもしれませんが・・・)
元々、量子重力理論の候補「超ひも理論」が仮定し、名前も「多元」と似ている「多次元」とも関連があります。
そこでは我々が知覚出来る4次元(空間+時間)+6次元の余剰次元で構成され、後者は多様なパターンを数学的にはとりえます。(カラビ=ヤウ空間)
つまり、超ひも理論が万物の理論だとすると、それぞれで異なる余剰次元の性質(=物理定数に影響)を持った宇宙があってもいいわけです。
そして超ひも理論は、前述の泡宇宙モデルとも折り合いがつけられることも分かってきているため、ある意味マルチバース宇宙論のサポート役と見る事も出来ます。
改めて書くと、多様な真空エネルギーから多様な宇宙が泡のように生まれ、今の我々(観測者)はその中から物質の密度と近い宇宙にいるよ、ということです。
これをして、人間は特別な存在なのである、と強引に解釈する理屈も聞いたことはありますが、個人的にしっくりきません。
どこかで聞いた例え話ですが、自分の足のサイズにあった店を何件も渡り歩いてたまたま見つけた、というほうがしっくりきます。
参考までに、宇宙物理の専門家がこの言葉へのスタンスについて語っており、上記と別の文脈も含めて今のプチ混乱を現していると感じます。
近年では、上記文中にある「多世界解釈」との整合性なども唱えられているようですが(巻末文献)、それにしてもやはりとっつきにくいです・・・。
そしてだからこそ、マルチバースに取り組む専門家の方々の開拓者精神には心から敬意を表します。
<主な参考リソース>
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