ワームホールとアインシュタイン
前回、量子テレポーテーションとワームホールの関連について触れました。
たまたまですが、日本を代表する宇宙物理学者佐藤勝彦が、日経新聞の連載でこれに関係するコラムを投稿しています。
有料記事なので、内容をそのまま記載することは避けます。
その代わり、丁度よい機会なので、今回はタイムマシンの実現方法でよく使われる「ワームホール」の話を中心にお届けします。
超ざっくりいうと、ワームホールとは、時空を折り曲げて2点の距離をゼロにする時空の構造です。
今回は主にWikiを踏まえて、派生したこぼれ話を足していきます。
まず、初めに気になるのが、なぜ「ワーム(虫)」と名付けたのか?
リンゴ表面のある場所からちょうどその裏側に行くためには、ぐるっとリンゴを半周する必要がありますが、虫がリンゴの中を食べながら掘り進むと短い距離の移動で済む、という例えからつけられました。
名付け親は、「ジョン・ホイーラー」という有名な科学者で、1957年のことですので結構歴史は古いです。
ホイーラー氏は色んなことをやってますが、有名な話では「ブラックホール」の名付け親でもあります。(こちらは1967年)
名付け親はともかく、そのアイデアを考案したのは、ヘルマン・ワイルという主に数学者です。(主にと書いたのは多方面に活躍したため)
日本人初のフィールズ賞に輝いた小平邦彦の才能を高く評価した方としても有名です。(あとはフェルマーの最終定理の系譜でもたまに見ます)
なぜ、数学者が「ワームホール」という宇宙物理っぽいことをしているのかというと、そもそもこの時空構造は「一般相対性理論」から発展したモデルだからです。
一般相対性理論は、ぐにゃぐにゃ時空が曲がった世界観を記述する理論です。時間も絶対的でなく相対的であるため原理的にはタイムマシンは可能です。よく言われるのが光速に近い速さで地球から離れて戻ってきたらその人の時間は遅くすすみ、浦島太郎みたいな存在になる、というものです。
ただ、この理論を表現するためにはリーマン幾何学という数学が必須です。
まさにワイルはこの領域を専門にしており、異なる時空をつなぐTubeのような概念を発案したのがその原型です。
その後は、一般相対性理論の生みの親にあたるアインシュタイン自身が、それに近い概念をローゼンと考案し(ちなみにワイルとも同僚でした)、過去にもタイムトラベルの流れで紹介しました。
上記記事内にある「アインシュタイン・ローゼンの橋」がまさにワームホールを指しています。
このローゼンという科学者は、知名度で言えばアインシュタインほどではないですが、実はもう1つ歴史的に知られた論文をアインシュタインと共同で発表しています。
3人の著者の頭文字をとって「EPR論文」と呼ばれますが、「EPRパラドックス」とも呼ばれ、過去にも紹介したこともあります。
上記記事で触れた通り、「量子もつれ」のきっかけとなる論文も、ローゼンたちと共にアインシュタインは出していました。
つまり、前回関連があると伝えた「量子もつれ(からのテレポーテーション)」「ワームホール」いずれもアインシュタイン(とローゼン)が初期のアイデアを提出した、ということです。
物理学の歴史をたどるとなぜかいつもアインシュタインが現れ、その影響力の高さと守備範囲に舌を巻いてしまいますが、今回もそんな話でした。