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塗り込められた20世紀の記憶《ビルケナウ》

黒・灰・緑・赤・白などの色が塗り込められた4枚の巨大な抽象画。現代アートの最高峰ゲルハルト・リヒターが、「ホロコースト」という深刻な主題に挑戦し完成まで50年近くかかった最重要作品。日本の現代アートの中で2022年一番の話題作。私はアウシュビッツのような暗いテーマは好きではなかったが、最近ではナチのような「全体主義」が、この世にこれからも復活する可能性があると言われており、《ビルケナウ》には強烈な感銘を受けた。《ビルケナウ:Birkenau》(2014年)Gerhard Richter


「死の門」・アウシュヴィッツ第二強制収容所(ビルケナウ)の鉄道引込線Auschwitz Birkenau
著者: C.Puisney:CC-BY-SA 3.0

ビルケナウとは?
人種差別による絶滅政策(ホロコースト)および強制労働により、最大級の犠牲者を出したアウシュビッツ強制収容所。
・Auschwitz-Birkenau:ビルケナウ強制収容場(ポーランド:アウシュビッツ第2収容場)
・ホロコースト(ドイツ語: Holocaus)とは、第二次世界大戦中の国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)率いるドイツ国(ナチス・ドイツ)がユダヤ人などに対して組織的に行った絶滅政策・大量虐殺を指す。

歴史的記憶の創出「インパクト」

幅2m高さ2.6mものサイズの4枚の巨大な抽象画に圧倒される。
絵の深層には、アウシュビッツ強制収容所での囚人が隠し撮りした4枚写真から生まれたフォト・ペインテイングがベースに存在し、それに黒・灰・緑・赤・白などの色が、塗り込められ複雑な抽象絵画が出来上がっている。その作品からは、フォロコーストの記憶を、深層からあぶりだそうとするリヒターの格闘が伝わってくる。
また、会場では、4枚の巨大な抽象画の抽象画だけでなく、写真・鏡などを使った空間も深いレイヤーを構成している。

Birkenau《ビルケナウ》の空間構成
アウシュビッツ強制収容所の小さな4枚写真、4枚構成の巨大作品群《ビルケナウ》、4枚の複写写真《ビルケナウ》、大きな横長の鏡(グレイの鏡)

4つの「レイヤー」からみる多彩なリヒター魅力

①    抽象・具象、色彩・無色彩(グレイ)など「造形・色彩の表現スタイルの差異と超越」
②    「絵画と写真の融合・展開によるイメージの変容」
③    ガラスや鏡を用いた作品群など「リフレクション(映ること、映すこと)」の意外性
④    展示空間の構成に応じて多様で自由なで「マルチプル」な表現

フォロコーストのテーマに挑戦「コンセプト」

1960年代以降、ホロコーストという主題に挑戦、≪ビルケナウ≫(2014年)完成まで50年近くかかった。リヒターの言葉では、自ら抱かえてきた長年の芸術的課題から「自分が自由になった」と感じたとのこと。リヒターにとっての達成点であり、また転換点の重要作品であり、2027年にドイツに開館予定の「20世紀美術館」で常設展示予定。

2022リヒター展( 豊田市美術館)
2022年の日本では16年ぶりとなる待望の大個展開催!https://richter.exhibit.jp/

ゲルハルト・リヒターGerhard Richter
1932年ドイツ東部、ドレスデンに生まれ、1961年に西ドイツへ移住。
コンラート・フィッシャーやジグマー・ポルケらと「資本主義リアリズム」運動を展開。その後、イメージの成立条件を問い直す、多岐にわたる作品を通じて、世界で評価される。
現代生存している最も重要な画家:90歳(2022現在)

変化を続けるリヒターのキーワード

・〈フォト・ペインティング〉写真をうつした60年代初期の試み
・〈アトラス〉プライベート境界壁崩壊の頃、写真から始まるイメージの小宇宙
・〈カラーチャート〉〈グレイペインティング〉レディメイドと無個性の志向
・〈オイル・オン・フォト〉 創作の核心をシンプルに明快に表現する基本モデル
・〈ストリップ〉2011年から始められたデジタルプリントのシリーズほかリヒターの素顔 が見えるドキュメント写真

〈フォト・ペインティング〉
〈グレイペインティング〉

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