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オンライン講座でアードリック「赤いコンバーチブル」を読みました

 5月24日の夜7時半から、NHK文化センターのオンライン講座「英語で読みたい! アメリカ文学」でルイーズ・アードリックの短篇「赤いコンバーチブル」(The Red Convertible)を読みました。
 僕はもともとアードリックの作品がとても好きで、以前『丸い家』という長篇小説についてエッセイを書いたことがあります。とは言え、日本でネイティブアメリカン作家の作品はあまり広く読まれていないので、今回教材として取り上げるのには結構不安がありました。しかしながら、実際に講座をやってみるとみなさんすごく乗り気で、正直ホッとしました。
 主人公はネイティブアメリカンの兄弟で、儲けたお金で赤いオールズモビルのコンバーチブルを買い、ネイティブアメリカンの居留地やその周辺を走り回ります。あるとき、たまたま乗せた女性の家まで送ると申し出ると、家はアラスカだ、と言われてしまう。すると兄弟はなんとアラスカまで彼女を送り届けます。
 ノースダコタやアラスカの自然描写がとにかく素晴らしい。今まで何も生えていなかったのに、一夜にして見渡す限りの地面に草が芽吹く話など、とても心が動かされます。描かれている風景もそれを描写する言葉もとてもとても美しい。
 でも途中で物語は方向を変えます。あんなに明るく力強かった兄が海兵隊員としてベトナム戦争に参加し、戻ってくると、完全な鬱状態に入ってしまいます。わざと車を弟が壊し、兄がそれを直す、という過程で兄は元の明るさを一見、取り戻したようですが、結局は悲劇的な結末にたどり着いてしまいます。
 途中に出てくるダンスや祈りにも似た細部がまるで儀式のようだ、という意見がかなり出ました。ここら辺はシルコウの長篇『儀式』とも共通していますよね。ネイティブアメリカンの伝統文化と近代小説という形式で出会って、すごくオリジナルな作品が生まれているように思います。
 しかも、日本の読者にも彼らの喜びや悲しみがすごく直接的に伝わってくる。優れた書き手の言葉は言葉の壁を越えて行くんだな、と実感させてもらえた回になりました。
 次回はダイベックの短篇「ペットミルク」です。舞台は急にシカゴの都会に変わりますが、これもとてもいい作品ですよね。今から楽しみです。

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