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【書評】チャック・パラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』--死者たちを蘇らせる

 少女がさらわれる。監視カメラの映像には、彼女がもう一人の少女と手をつなぎ、路地裏に消えていく様が残されていた。やがて彼女の両親は離婚し、父親は娘を必死に探し続ける。けれども他の手がかりは見つからない。10年以上が経ち、父親はダークウェブの危険な映像の中に娘を見出す。それは彼女の悲鳴だった。誰がこの音声を作ったのか。そして娘はどうなったのか。
 アメリカに住んでいると、行方不明になった子供達の写真の入ったハガキがポストに入る。毎年多くの子供達が消えているのだ。もちろん犯罪に巻き込まれた子供も多いだろうし、離婚後、親権のない親に連れられて州の境界を越えた子供達もいる。そうした写真を眺めていると、可哀想で、悲しくて、なんとも言えなくなる。
 父親が数々の困難を乗り越えながら娘失踪の謎に迫るこの物語は、とにかく読ませる。そして同時に、我々に深くものを考えさせる。
 もし誘拐された子供が亡くなっていたとして、その声や映像が映画や動画の中で生き続けた場合、彼女はあるレベルでは生き続けてると言えるのか。あるいは、彼女を覚えている人々のなかで彼女が繰り返しよみがえる場合はどうか。
 かつて文学は死者たちを蘇らせる手段だとティム・オブライエンは語っていた。パラニュークもまた、こうした問題に触れている。暴力的で、悲しくて、同時にとても倫理的な物語だ。

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