「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表登録に関する評価機関による勧告内容について
11月4日に無形文化遺産保護条約政府間委員会の評価機関が「伝統的酒造り」をユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載を勧告しました。文化庁のHPでは、勧告内容のポイントが
・委員会は, 日本が「伝統的酒造り」を人類の無形文化遺産の代表一覧表(以下「代表一覧表」と いう。)への記載に向けて提案したことを確認する。
・提案書の情報に基づき,日本の提案は,代表一覧表に係る5つの基準を満たしている と考える。
・代表一覧表に「伝統的酒造り」を記載することを決定する。
・日本が,本案件に関係する文化的実践について詳細かつ視覚的に紹介する良質のビデ オを提出したことを称賛する。
と発表されていますが、詳細は原文参照とされています。
この原文DRAFT DECISION 19.COM 7.b.44について、保存会で和文訳を作成しました。なお、当翻訳及び注釈は保存会が行っています。ユネスコや政府が認めているものではないことに留意ください。
DRAFT DECISION 19.COM 7.b.44 評価委員会
1. 日本の「伝統的酒造り:日本の伝統的なこうじ菌を用いた酒造りの知識及び技術」(No.01977)を人類の無形文化遺産代表一覧表への記載に推薦することに対する留意事項:
日本の酒は穀物と水を原料とするアルコール飲料で、日本文化に深く根付いている。 職人はこうじ菌を使って原料のデンプンを糖に変える。 職人たちは、こうじ菌が最適な環境で育つよう、温度や湿度を調整しながら工程を管理する。 彼らの仕事が酒の品質を左右する。 神からの神聖な贈り物とされる酒は、祭り、結婚式、通過儀礼、その他の社会文化的な機会に欠かせない。 現在では大量に生産されているが、職人たちは伝統的な方法で酒造りを続けている。「杜氏」と呼ばれる酒造りの最高責任者が、「蔵人」と呼ばれる酒造りの職人たちを指導し、その技を伝承している。 はじめは、酒は女性だけが造っていた。 需要が増えるにつれ、男性も酒造りに携わるようになった。 現在では、性別に関係なく知識と技術を習得することができる。 酒造りは徒弟制度を通じて伝承される。 地域の組合も酒蔵を支援し、職人たちによって設立された2つの全国組織(注 日本酒造杜氏組合連合会、日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会 以下同じ)も、日本政府の財政的・技術的支援を受けて、酒造りの体系的な継承に貢献している。 酒造りは多くの人の手と強いチームワークを必要とするため、職人同士の社会的な結びつきを促進する。 また、原料を提供する農家を含む地域住民との結びつきも強まり、社会的結束にも寄与している。
2. 提案書に含まれる情報から、この推薦が人類の無形文化遺産の代表的なリストに登録されるための以下の(注5つの)基準を満たすとみなす:
R.1:その要素は、日本におけるこうじ菌を用いた酒造りの伝統的な知識と技術である。酒造りの知識と技術は、個人、地域、国の3つのレベルで伝承されている。 伝統的な伝承方法には徒弟制度があるが、関係コミュニティを代表する2つの全国組織も、さまざまなプログラムや取り組みを通じて伝承を支援している。 この要素は、職人や関係するコミュニティ間の強い社会的結びつきと結束を促進する。 また、この要素は、コミュニティにとって強い文化的意味を持ち、酒は日本の祭り、結婚式、通過儀礼、その他多くの社会文化的機会に欠かせないものである。
R.2:その要素は、食料安全保障、気候変動を含む環境の持続可能性、持続可能な消費と生産、平和と社会的結束に貢献する。 この要素は、清らかな水と、米や大麦のような酒造りに不可欠な穀物を守ることによって、食料安全保障と環境の持続可能性に貢献する。 関係コミュニティはまた、持続可能な食料生産と酒蔵周辺の環境保護を確保している。 ジェンダー平等という点では、20世紀以降、酒造りはすべての性別に開かれている。 酒造りは、職人や地域住民を結びつけることで、平和と社会の結束を育む。 また、持続可能な消費と生産を促進し、資源の効率的な利用とリサイクルによって廃棄物を最小限に抑えている。
R.3:徒弟制度以外の様々な保護措置が、関係コミュニティ自身によって計画的に実施されている。 職人たちは、自分たちの酒蔵での実践を文書化し、記録している。 地域の組合は、講習会を開催し、技術指導員を酒蔵へ派遣している。 さらに、日本酒造杜氏組合連合会と日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会は、伝承のための条件整備に取り組んでいる。 政府による保護措置には、毎年開催される酒造技術向上を目的としたコンクール(注 鑑評会)の開催、伝承活動を行う地域への助成、酒造技能検定制度の創設、こうじ菌や酵母の開発などが含まれる。 日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会は、これらの責任ある主体から保護措置の進捗状況とその結果に関する情報を収集する。 同会はまた意図しない結果を監視する責任も負う。
R.4:文化庁が実施した全国調査に職人が参加し、保護措置に関する情報を収集した。 関係コミュニティは、自由意思に基づき、事前に十分な情報を得た上で提案に同意した。 また、提案書を作成するために、文献を提供し、全面的に協力した。
R.5: この要素は2021年12月に日本の無形文化遺産に登録され、文化庁によって管理されている。 登録プロセスに関する情報は、2016年に提出された定期報告書に記載されている。 関係コミュニティはICHの各要素に関係するインベントリ(注 棚卸し、状況確認)プロセスにおいて、その要素に関する情報を提供する。関係コミュニティはまた、インベントリの年次更新の際に、伝承の状態などの更新情報を提供する。