文体の舵をとれ で作った習作①

 発売当時『文体の舵をとれ』で書いたものをふと読んでみたら、「なんだかちょっとだけ面白いかも」と思えるものがあったので投稿します。

第二章 句読点と文法
<練習問題②>ジョゼ・サラマーゴのつもりで

一段落〜一ページ(三〇〇〜七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。

『文体の舵をとれ』P.49

 ひっそりとした空気が漂う路地裏の雑居ビルの汚い階段を降りると鉄の扉があり硬いノブを回し重い扉をゆっくり開けると堰を切ったように爆音の洪水が押し寄せて100人余りの人々が熱狂と興奮の渦に飲まれていてある人は地鳴りのようなビートの上でダンスを踊りある人は内臓に響く低音と泡立つビールを胃のなかでかき混ぜある人は歪んだエレキギターを浴び電気の悦楽に身を委ねある人はマイクロフォンで増幅された甘美な言葉に抱きしめられながら陶酔という名の海に深く沈みこみある二人は隅の暗がりで抱き合い舌を絡ませてある集団はステージ間際のスペースで押し合いへし合いしながら汗を四方八方に散らしうねりの中で己の鬱屈を叫びやがて人の波は喜怒哀楽の輪舞に変化しそしてひとりひとりの人間の境界が消え一個の生命体へと変容した集団はそれぞれの感情を受け入れて泣きながら笑い怒りながら悲しみ憎みながら愛しパレットの上で絵の具を混ぜ合わせたように一つの色に溶け合いもはや魔法としか言えない現象を生み出す音楽というものは大昔から人間によって奏でられ形を変えながらこれからも響き続け決して鳴り止むことはないと私は考えるのである。


気が向いたらまた投稿します。

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