「ほんとうに」思ったことだけを書くのがライター【さとゆみゼミレポート第2回】
ライター・コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)さんが主宰する「さとゆみビジネスライティングゼミ」の講義レポート。今回は第2回をお届けします。
第1回のレポートはこちら↓
「書かない」ことも大事な選択肢
まずは前回の復習から。初回の講義では文章のゴールとスタートについて学んだ。
文章のゴールは、誰かの態度(思考)を変容させること。一方、文章のスタートは、自分が気づいたことを誰かに教えてあげること。「誰かに何かを伝えたい!」という気持ちになるまで取材を続けることが大事だと習った。
前回の復習をしている中で、心に響く言葉が飛び出した。さとゆみさんは言う。「書かないことも大事な選択肢。世の中にこれだけ文章があふれている時代だから、書くときは覚悟をもって書く。そうじゃないときは、書かないことも大事」。「これをみんなに知ってほしい!」といった熱量が生まれるまで取材をする。その熱量が生まれなければ書かない。その意識をもっていきたい。
さらに前回は「書くことの9割は聞くこと」ということで、「徹子式」と「タモリ式」の2つの聞き方を学んだ。
まずは徹子式で幅広く聞きながら、面白そうなところをタモリ式で突っ込むのがセオリー。ただ実際の取材では時間が限られているため、なるべく事前に徹子は済ませておいて、取材当日は思いきりタモるのがいいという。
取材前の徹子の方法は
すでに出ているインタビュー原稿を全て読む
事前アンケートに回答してもらう
の2つ。インタビュイーが著名な方で取材記事が多数出ている場合は前者、あまり既出情報がない場合は後者で対応するのがよさそうだ。
いずれの方法でも、取材前の予習で徹子部分をしっかりと調べ、タモるべきところを事前に可視化することが大切。タモリポイントを決めておいて、取材当日はタモリまくるのが理想だ。
取材中のメモの取り方
ゼミ生からメモの取り方に関する質問があった。さとゆみさんは基本的に取材中はメモを取らないという。なぜなら、メモを取っていると聞き逃すから。取材では録音しているので一字一句メモる必要はないのだ。
さとゆみさんがメモを取るケースは、以下の2つ。
疑問が生まれたとき(あとで質問するため)
固有名詞(地名など間違ってはいけないもの)
それぞれに合った方法を見つけるのがよいとした上で、さとゆみさんは「メモに注力するよりは、質問することに注力する」と教えてくれた。
ライターの仕事は椅子取りゲームではない
さとゆみさんの話を聞くのは楽しい。新たな知識や考え方を知れるのはもちろん、「書くことを続ける人生って最高だな」と思えるからだ。今回も、モチベーションが高まる言葉を聞いた。
「ライターの仕事は椅子取りゲームではない。ライターの仕事は死ぬほどあります。自分より優秀な人がいるから、仕事が来ないという状況はない。ライターは人を蹴落とさないといけない仕事ではない。だから、自分が成長することだけを考えればいい」
ライターは、同じ仕事を人と比べられることはない。10人が同じ現場にいて同じテーマで記事を書くなんてことは、新聞記者などの囲み取材以外ではありえない。「人と比べることは本当に意味がない。あなたが昨日よりもうまくなっていることがすごく大事」。なるほど。たしかにそうだ。比べるべきは昨日の自分だ。
分かりやすい文章を書ければ、一生食っていける
ライターとして書く文章では、分かりやすいことが大事だ。さとゆみさんは、文章のレベル1を「間違っていない」こと、レベル2を「分かりやすい」こと、レベル3を「面白い」ことと考えている。その上で「分かりやすいことまでクリアできたら、プロとして一生食っていけます。なぜなら、現役のライターさんで分かりやすい文章を書ける人は半分もいないから」と話した。
そのため、さとゆみビジネスライティングゼミは、分かりやすい文章を書けるようになることをゴールに設計されている。
では、分かりやすさとは何か。どうすれば、分かりやすい文章を書けるようになるのだろうか。
ライターとして肝に銘じておきたいのが「二度読ませたら負け」。読者は二度読まないと意味が分からない部分が2箇所あると、文章から離脱してしまう(文学作品は例外)。最後まで読んでもらうためには、二度読ませたらダメなのだ。
二度読ませないためには、読んだ順番に理解できることが大事。たとえば、以下の2種類の文章では、どちらがより良い文章か。
①さとゆみさんは「二度読ませたら負けです」と言いました。
②「二度読ませたら負けです」と、さとゆみさんは言いました。
より良いのは①。冒頭の「さとゆみさんは」の時点で読者の頭の中には、さとゆみさんの顔が浮かぶ。その後のセリフはさとゆみさんの声で再生される。
一方②は、セリフを読む時点ではその発言主がさとゆみさんだと分からない。後からさとゆみさんの発言だったことを知り、脳内でもう一度冒頭から文章を読み直すことになる。これが二度読みだ。
実際には、②のようにセリフの後ですぐに種明かしがされる場合は、書いてOK。しかし、「『二度読ませたら負けです』と彼女は言った。二度読みとは〇〇のことだ。二度読みがなぜいけないのか。それは〇〇〇〇からである。僕はその話を聞いて、なるほどと思った。これを教えてくれたのは、さとゆみさんである」というように、ずっと先まで発言者が明かされないと、読者は全部読み直しになってしまう。
こうなると、読者のメモリを使ってしまうのだ。分かりやすい文章とは、読者のメモリを食わせない文章であり、読んだ順番に意味が理解できる文章のことだ。
感動のサイズ感に敏感になれ
前回の講義後に出された課題「他己紹介」に対するさとゆみさんの講評が返ってきた。自分の文章だけでなく、ゼミ生22人分への添削を見られるのが、このゼミのすごいところだ。
前回の講義中に1対1のペアでお互いを取材し合い(取材時間は計7分)、その内容を200字程度で書くというのが、課題だった。
僕の書いた他己紹介に対する、さとゆみさんのフィードバックはこちら。
結構落ち込んだ(笑)。グサッと刺さった。僕は冒頭で「〇〇さんは、何度だって挑み続ける不屈の人だ」と書いた。が、さとゆみさんから「ほんとうに不屈の人だと思ってる?」と突っ込まれた。「不屈」とは、どんな困難にぶつかっても、意志を貫きくじけないことだ。
白状すると、僕はそこまで「不屈の人」だと思っていなかった。というか、初対面で7分話しただけでは、おそらく「不屈の人」だと思えないはずなのだ。ただ僕は、読者を惹きつけようと、強い言葉を使ってしまった。そして、これまでのキャリアを振り返ると、思ってもいないことや誇張した表現を書いたことが何度もあった。ほんとうに反省している。
さとゆみさんは「感動のサイズ感」という言葉を使った。感動のサイズ感をちょうどよく合わせることが、大事なのだ。
「うまい人ほど、手が勝手に綺麗な言葉を並べるんです。でも、思ったことしか書かないというのがそのライターの価値を上げます。信頼度を上げます。言葉のサイズ感は、ライターの誠実さ。ほんとうに自分はそのことを感じたのだろうか?手が勝手に動いていないだろうか?と意識して、ほんとうに思ったことだけを書きましょう」
もう一点、課題講評で印象に残ったのは書く内容について。さとゆみさんは、秋元康さんの「記憶に残る幕の内弁当はない」という発言を引用しながら「今回は200字なので、一点突破で書くのがよい。幕の内弁当ではなく、トンカツじゃ!ラーメンじゃ!サンドイッチじゃ食え!という感じ。その方が記憶に残りやすい」と言った。800字程度までなら色々と詰め込むのではなく、ワンテーマで書くのが良いという。
文章の2つの型
今回の講義では4人のグループで話すワークがあった。
ワークの後、テーマは「気持ちが動く紹介とは?」へ。その商品(サービス、体験)を買ったら、どんな「いいこと」があるのか。それをイメージできるのが、気持ちの動く紹介。「いいこと」を伝える文章の型は2つしかないのだという。
「AだからB」「AなのにB」の2つ。つまり、順張りか逆張りか。
たとえば、髪型について褒めるとしたら
ベリーショートだから、かっこいい(AだからB)
ベリーショートなのに、色っぽい(AなのにB)
黒髪ストレートだから、清純派っぽい印象(AだからB)
黒髪ストレートなのに、個性的(AなのにB)
この2種類の型のどちらかしかない。
「AだからB」の文章の読後感は「超納得!」「AなのにB」の文章の読後感は「マジかよ!」といった感じになる。ただし「AなのにB」の場合、理由は必須である。
この2種類の型を使うことが可能だが、原稿を書く、企画を立てる上でメインになってくるのは、逆張り型の「AなのにB」。
たとえば「お金を貯めたいのであれば、貯金をしなさい」という原稿は当たり前すぎて読む気がしない。しかし「お金を貯めたいのであれば、使いなさい」「お金を貯めたければ、貯金はするな」という原稿なら読んでみたいと思える。企画には意外性が欠かせないので24時間365日、「AなのにB」の型で書けるものがないか、探す意識をもっていきたい。
さらにもう一つ、気持ちが動く文章には、エピソードが欠かせない。
シャンプーを紹介する文章で「保湿成分が従来に比べて20%アップ。なめらかな指通りで、さらさらに。これまでダメージに悩んでいた人にも!」と言われても、あまり響かない。全てのシャンプーに言えるんじゃね?と思える内容で、何かを言っているようで、何も言っていない文章なのだ。だから、誰の心にも届かない。
一方で「この間、2ヶ月ぶりに美容院に行ったら『さとゆみさん、何かやりました?めっちゃ髪質よくなってるんですけど』って言われたんですよ!」と言われたら、気になる。実際、コロナ期間にこのエピソードを書いて紹介したら、シャンプーがよく売れたのだという。
人の心を動かすのは、個人的エピソード(必ずしも自分の経験でなくてもいい)。自分の推しを紹介する際には、以下の流れで書くと、書きやすい。
①エピソードで始める
②なので、今日はこれを紹介したい!
③この商品、(お客様に)こんないいことが!(「AだからB」もしくは「AなのにB」)
④こんなふうに使えます(使用シーンなど)
*****
さとゆみさんはサバサバした人という印象を受ける。初回の講義では「私は思ったことは全部口に出すし、口に出さないことは何も思っていない」と言っていた。この人、つえーと思った(笑)。でも、僕は気付いてしまった。さとゆみさんはサバサバしているが、愛がある。
課題の講評を見て、驚いた。22人に対して、とても細かく添削をしてくれた。「人と比べなくていい。自分の成長だけを考えればいい」。一つひとつの言葉選びにも、愛を感じる。さとゆみさんは「あらゆる原稿は推し原稿であり、お手紙」と言ったが、これは僕のさとゆみさんへの推し原稿であり、お手紙だ。