『劇映画 孤独のグルメ』感想 - 「こういうのでいいんだよ」と言わせてほしかった
■はじめに
孤独のグルメ、好きな番組です。
漫画原作ドラマではあるものの主人公の風貌は漫画とは似ても似つかず、
内容も「おじさんが旨そうに飯を食うドラマ」と言う他に説明のしようが無い特異な作品でありながらもジワジワと人気を獲得。
気付けばシーズン1から10年以上を数える長寿シリーズと化し、
最近ではテレ東が楽をするため年末の一挙放送が恒例となっていたりと独自の地位を築くことに成功している。
そんな孤独のグルメがまさかの映画化(公式的には「劇映画」)を果たしたとあって、
微力なりとも興行収入に貢献することで本作の爆死を願っているアンチ孤独のグルメ代表こと松重豊(主演兼監督兼脚本)に一泡吹かせるためにも劇場に足を運んできました。
というわけで、感想として以下にて「良かった点」「気になった点」をそれぞれ3つずつ挙げさせて頂きます。
ネタバレを多分に含んでいますので、まだ観ていないという方はぜひとも一旦回れ右して興行収入を引き上げてからこの記事に帰ってきてください。
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■良かった点3つ
①魅力的なゲストキャラ達
『孤独のグルメ』は元々レギュラーキャラと呼べる人物が極端に少ないドラマで、実際今回の劇場版でもドラマから引き続き登場しているのは我らがゴローこと井之頭五郎、そしてゴローの旧友の滝山の2人のみである。
(滝山に関してはむしろドラマ版より露出が増える逆転現象が起きていたりする)
そして普段の構成と比べるといわゆるドラマパートに高く比重が置かれていることもあって
行く先々で様々な人物と出会うことになるが、配役の好演もあってどの人物も魅力的なものに仕上がっている。
中でもユ・ジェミョン演じる入国審査官は堅物キャラかと思いきや食に対して熱いものを持っており、
謎の不法入国者・ゴローの食べっぷりに思わず見入ってしまうシーンは本作屈指の名場面と言えるだろう。
あと内田有紀が美人すぎる。本当に49歳か?
②映画ならではのスケールの大きさ
映画はパリへ飛行中のJAL機内から始まる。そこで機内食のビーフorチキンを迷った挙句不運にも食いそびれてしまい、
お詫びのドライなっとうを虚しく頬張るという何とも「らしい」場面を経てパリの街に降り立ち、
エッフェル塔の前で満を持して腹を減らし本場のフレンチを堪能したかと思ったら急転直下して長崎は五島列島へ…というロケーションの豊富さはまさに「劇場版」。
ただ各地を転々とするあまり、場所によっては2品3品で終わってしまうのは少々勿体無い気もした。
③「劇場版孤独のグルメ」という存在自体が持つ面白さ
サラリーマンが脳内で独り言をつぶやきながらひたすら飯を食う映像が劇場の大スクリーンに映し出され、
それを自分含めて観客が無言で見つめている。今思い返してもさすがにこの光景は面白過ぎると思う。
今後ソフト化やテレビでの放送もあるかと思うが、あの謎空間を体感出来るというだけでも劇場に足を運ぶ価値はあると断言出来る。
「孤独のグルメファンが一堂に会している」という普段ではありえない一体感も唯一無二の体験と言えるだろう。
だからこそ内容は「いつもの」であって欲しかったのだが、それは以下の「気になった点」にて。
■気になった点3つ
①全体的に展開が強引
ストーリーはパリに住むとある老爺が思い出の味である「いっちゃん汁」という汁を再現してほしい、とゴローに頼み込むことから動き出す。
紆余曲折あって最終的にいっちゃん汁(に近いもの)を提供することには成功するのだが、
一連の食材の入手経緯を考えるとどうにも行き当たりばったりで終始「ほんとにその食材で合ってるの?」という感覚が付きまとう。
(分量や味付けや行程は結局ノーヒントで作っていることについてはこの際不問とする)
また、一応「いっちゃん汁作りの思わぬ副産物」という流れにはなっているのだが、
人によっては「俺は謎の汁を追い求める映画を見ていたと思ったらいつの間にかラーメン屋を復活させる映画を見ていた…!」という感覚に陥ると思う。
その原因の根底として、「老爺が幼い頃五島列島でよく飲んでいた母の手料理の汁」と「フレンチ畑のシェフが東京に出店していたラーメン屋のスープ」の材料が何故かほぼ一致していて、
そのことについての言及が作中でほぼ無いことが挙げられると思う。
そこに何らかの理由付けがあれば「この大将にもう一度ラーメンを作ってもらう事こそがいっちゃん汁への一番の近道だ!」という展開に持っていけることが出来たはずなのだが、
実際には「どうにも材料が分からない汁を追い求めていたら成り行きでラーメン作りに協力することになってついでに汁も再現出来た」という感じになってしまっている。
というかあの爺さん戦中か戦後かって時代に随分いいもん飲んでんな。
②ゴローが取る行動の違和感
今作の「ちょっと普段と違うなあ」という違和感を個人的に象徴するシーンとして、SUP絡みの騒動が挙げられる。
依頼された食材探しのため離島に渡りたいゴローだが、フェリーの最終便が出てしまったことが判明し焦りに焦る。
そこでふと目に入ったSUP(立ち乗りボート)とライフジャケットを無断で借りて海上に漕ぎ出すが、案の定台風に巻き込まれとある島に漂着し…というもの。
(ゴローの名誉のために言うと一応書き置きと1万円は店先に置いていた。結局風で飛ばされたけど)
確かにゴローは何かとトラブルに巻き込まれやすい体質ではあるが、今回については「(五島列島に居ない)滝山ですら知っている台風の進路を把握していない」
「時間に余裕があると高をくくって食事していたら結果的にフェリーを逃す」「フェリー乗り場のおじさんのこれから海が荒れるという忠告を無視」と、
いくらなんでも自爆が過ぎるため「そりゃあ遭難するのも仕方ないわな……」と納得することが難しくなっている。
そもそも慣れないSUPを拝借してでも渡りたい理由が「目当ての食材を置いている店が今日を逃すと明日休みだから」「離島に宿をもう予約してあるから」の2点しか無く、
「何としても渡らなければいけない」というには非常に説得力が弱い。離島に渡るのが明後日以降になると汁作りの依頼が達成出来なくなるわけでもないし。
上記を含め、要所要所でストーリーを動かすためゴローが「やめたほうがいいんじゃないかな」という行動を取る、平たく言うとアホキャラ化してしまっていたのが残念。
せっかく主要キャラの一人としてトラブルメーカーの滝山が居たんだし、「滝山が引き起こした騒動に巻き込まれる五郎」の構図にしておいたほうが角が立たなかったんじゃないかな……
③「お約束ネタ」のバランスが悪い
孤独のグルメの楽しみといえば、メシ界の水戸黄門と言って差し支えないほどの「定番ネタ」にある。
以下にドラマ版孤独のグルメにおける一連の流れを簡単に記載してみよう。
おやつ程度のドラマパート⇒腹が…減った(ポンポンポン)⇒メシ屋に入店&メニュー吟味⇒脳内でブツブツ言いながら延々と飯を食う⇒満足して退店(ゴロ~♪)⇒ふらっとQUSUMI
孤独のグルメの話の構成は九分九厘これだと言い切っても差し支えないのではないか、そう思えるほど1話の流れが確立されているのがこのドラマの特徴である。
しかし映画ではドラマ版の要素がちりばめられてはいるものの、毎話おなじみの「ゴロ~♪」ことEDテーマ『五郎の12PM』や愉快なおじさん久住昌之の姿は無い。
そしてそれらを失って初めて「孤独のグルメを観たな」という充実感がどうにも不足していることに気が付いた。
スタッフロール後に唐突に「ふらっとQUSUMI in 韓国」が始まったとしても文句を言うファンは殆ど居なかったとは思うが、
さすがにそれは露骨というなら日常に戻り夕食のため入った焼き鳥屋で常連客Kがゴローちゃんに麦ジュースを勧めてくる、そんなひとコマがあってもよかったのではないか。
(まぁ久住おじさんに関しては一挙放送の時点でオミットされてたりするんだけど)
反対に、こちらもおなじみの「腹が…減った(ポンポンポン)」に関してはかなりの頻度で差し込まれるため若干のくどさを覚えてしまった。
エッフェル塔の前で、孤島の海岸でと1つ1つの画の面白さを思えば各地でやりたくなるのも分かるんだけどね。
あと細かい点だが料理に添える一言コメントが無かったのも残念。
オニオンスープに「玉ねぎタップリ、旨味ギッシリ!絶品チーズにお口もとろける!」とか書いてほしかったな。
■まとめ
『孤独のグルメ』初の映画化。普段は30分ドラマ、しかもその大半はメシパートとあって2時間の尺で何すんの?という答え合わせも楽しみに劇場に足を運んだが、
蓋を開けてみれば漂流あり毒キノコありダニエルありと中だるみ無く駆け抜ける映画らしい作品に仕上がっていた。
ただ、「普通のドラマの映画化」であれば当然視聴者をあっと言わせるようなストーリーの起伏は必須なのだが、
ここで無視出来ないのは『孤独のグルメ』が「普通のドラマ」とは到底かけ離れているということである。
初めてこのドラマを見た時、「…っておっさんが飯食っただけじゃねーか!」という至極真っ当な感想を抱いたのを覚えている。
しかし何話か視聴するうち、いつしか「おっさんが飯を食うだけ」を求めている自分が居た。これはシリーズファンの方も同じなのではないかと思う。
つまるところ『孤独のグルメ』の視聴者が劇場版に求めていたのは「せっかくの巨大スクリーンだってのに相変わらず自由気ままに飯を食いまくるゴロー」であり、
「トラブルに遭遇し飯どころか生命の危機に瀕するゴロー」を見て「こういうのが見たかったんだよね~」となったファンはあまり多くないのではないかと感じる。
(「無人島で救助を待ちながら自分なりのサバイバル飯を開拓していくゴロー」に振り切るならそれはそれで面白い気もするが)
とはいえ、「10億円行かなかったら主演を降板させる」とかなんとか宣っていたアンチの思惑と裏腹に興行収入の伸びは上々であり、
安めの制作費を踏まえて考えると現時点で映画としては十分成功と言って差し支えないだろう。
もし『劇映画 孤独のグルメ2』が作られることがあるならば、心から「こういうのでいいんだよ」と言える作品を期待したい。
あ、もちろん主演は松重豊でお願いします。
書いた人:こいつ( https://x.com/koitsu511 )
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