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【SS】他力のち自力のち雨
僕をどこか、つまらない日常から連れ去ってくれないかな。
毎日早起きして、満員電車に乗って、駅から30分歩いて学校に行って、聞きたくもない授業を聞いて、友達と話を合わせ、また満員電車で家に帰る。
僕の高校生活はこんなんじゃなかったのにな。
もっとこう、毎日が明るくて、きらびやかで、趣味の合う友達と毎日寄り道して、あ、彼氏もいて、毎晩電話したりさ。
一人称もちゃんと、学校でも「僕」って言えて、
素が出せる毎日を送るはずだったのにな。
あーあ。つまらない。ほんとうにつまらない。
僕をどこか連れて行ってよ、王子様。
…王子様?王子様じゃねーよ。
妖精がいい。
ぬいぐるみが急にしゃべりだすとか、空から急にふわふわした何かが飛んでくる展開の方が萌える。
王子に頼る生活なんかしたくない。
そうだ。私は姫になりたいんじゃない。
自分で道を切り開ける、プリキュアみたいな存在になりたい。
他力本願じゃなくて、自力だ。自力本願だ。
自分でやりたいことをどんどんやって、毎日キラキラさせてみたい。
そのためにはまず何をしたらいいかな。
…まぁでもまずは、妖精が来ないと始まらないか。
プリキュアも妖精から始まるもんな。
あーあ。妖精来いよ。
何で来ないんだよ。
妖精は変哲の無い女の子の元に現れるんでしょ?
僕みたいな平凡な女の子、居ないと思うよ。
それにこんなに、可愛い。
クラスで一番かわいくて、何の変哲もない女の子。
妖精に選ばれるのは、こんな女の子じゃなかった?
ねぇ、早く。
早くしないと僕、
「瀬川さん?…瀬川さん!」
…僕だ。
「はい。」
「あなたの番。教科書34ページ。」
…。僕は机から教科書を、恐る恐る出す。
…開けない。こんな真っ黒な、闇の教科書。
「…忘れました。」
そう僕が言うと、教師は溜息をつき、次の生徒を指名した。
周りから聞こえる、こそこそと、赤黒い声。
「だれ、やったのww」
「まぁやられて当然なんじゃねww」
「いっつも独り言煩いしね」
「なんか、妄想ノートとか書いてるらしいよ」
「うわ、きっしょwww」
そう?面白いよ、妄想ノート。
だって妄想ならなんだってできるもん。すっごい楽しいよ!
えっ、ほんと?楽しいの?じゃあ私もやってみようかなー!
うん!あ、じゃあ私のノート、今度みせてあげるね。
やった。楽しみだなー。
手にしずくがこぼれた。
何だろうこれ、止まらずに落ちてくる。
…あぁ、いつものあれだ。
疲れると目から出てくるやつだ。
また聞こえる、赤黒い声。
…ごめん、今日はもう疲れた。相手できない。
僕は手で目をこすった。
…あーあ。誰か僕を、連れ去ってくれないかな。
ねぇ、早く。
早くしないと僕。
こんな学校生活、送ってられないよ。