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【シナリオ】私には何も出来ることがない…進路に悩む高校生の話。

ーはじめにー
自分には何の取り柄もない、何をしたいかも分からないと暗闇をさまよう少女と、やりたいことがちゃんとあるのに、諦めなければいけない事情を持っている少女。
高校二年生のそれぞれの少女が、それぞれの進路に悩むお話。

〇ファーストフード店 2階
土曜午前中、少し空いている店内。
響はポテトとファンタグレープを注文し、席に着いている。
ぼーっとして、ファンタグレープをただ吸っている。

そこに、ラフな格好をした楓が、お盆を手にやってくる。お盆の上にはハンバーガーとナゲット、バニラシェイクを乗せている。
二人は共に同じミュージカルスクールに通うレッスン生、高校二年生。
楓、響をみつけ、対面に座る。

楓、しばらく響を見つめる。
響は楓に気づかない。

楓、そーっと響の前に両手を伸ばし、…手を叩く。

響「え!?」
楓「おはよ。」
響「あっ、おはよう。…え、いつから?」
楓「2時間前。」
響「いや、それは嘘やん。」
楓「2分前。酷くない?呼び出したのそっちじゃん。」
響「ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた。」
楓「見りゃわかるわよ。」

楓、ハンバーガーを開ける。

楓「で?何?」
響「…楓、今日立ち位置決めるって聞いた?」
楓「あー、ミクスナンバーでしょ?あれ私出ないよ。」
響「え、そうなん?」
楓「次メインだから。」
響「あ、そうなんや。」
楓「え、なに、その話?」
響「いやっ、」
楓「違うの?」
響「まぁ、、。」
楓「…。」

シェイクを1口飲む楓。

楓「何、虹羅と喧嘩でもした?」
響「それは違う。」
楓「でも、話しづらい事なのね。」
響「…まず、ありがと今日来てくれて。」
楓「…え、スクール辞めんの?」
響「それも違う。」
楓「えー、じゃあ何?もうムズムズする、キモイ!」
響「あー、わかったわかった。じゃあ話すから。」

響「…進路希望調査。」
楓「あー。」
響「なんて書いた?」
楓「…響の高校もう来たの?」
響「うん。まぁ、もう2年の秋だし。」
楓「てことはウチもそろそろ来るのかなぁ。」
響「1回目はもう書いたやろ?」
楓「春にね。」
響「なんて書いたの?」
楓「『未定』。」
響「え、許されるん?それ。」
楓「許されたよ、私は。」
響「なんで?」
楓「なんで…?…え、ギャルだからじゃない?」
響「自分で言うか。」
楓「だって聞くから。」
響「あ、ごめん。」
楓「何、進路悩んでんの?」
響「うん…。」

楓「まぁ悩みそうよね、響って。」
響「それどういう意味?」
楓「だって、軸ないじゃん。自分だけの、ブレないなんか。」
響「めっちゃズバズバくるー。」
楓「あたしに相談したってことは、それ覚悟だったってことでしょ?てかそう言って欲しかったんじゃ?」
響「違うよー。」
楓「は、違うの?」
響「スクールの高2代で、なんだろう、1番環境が似てるかなって。雷も舞帆も、女優一本だろうから、専門とか、4年生芸大とか、それかもう社会人勝負かとか、なんだろう、色々想像つくけど、結局女優になるってわかるから。」
楓「…ふーん。」
響「ね?」
楓「あたしは女優にならないと。」
響「そうとは言ってないやん。」
楓「言ってるようなもんじゃん。まぁ確かに、雷とか虹羅みたいにズバ抜けた才能も技量も無いから、そう言われてもなんも返せないけどさぁ。」
響「ごめんって、ほんと、そんなつもりじゃなくて。」
楓「えぇ?」
響「昔言ってたじゃん楓。卒業したら、もう舞台続けられないかもって。」
楓「…響に言ったっけ。」
響「言ったんだよ。それを覚えてたんだよ。」
楓「…そう。」

楓、シェイクを飲む。

楓「響は何で迷ってるの?」
響「…何でとかっていう段階じゃなくて。」
楓「ほら自分軸。」
響「まじ図星つくの堪忍して。」
楓「4月はなんて書いたの?」
響「一応、進学って。」
楓「芸大?」
響「いや、それはわかんない。」
楓「親御さんはなんて?」
響「大学行きたいならお金出してあげるって。好きなとこ行きなって。」
楓「神様みたいな親ね。」
響「ほんと、それには感謝してるんだけど。」
楓「でも、響的には誰かに決めてもらった方が楽だものね。」
響「最低だよね。でもここで、そんな性格変えられるんじゃないかって思ってはいる。」
楓「ちょうどいいじゃない。試練試練。」
響「他人事だと思ってー。」
楓「他人事だもん。」
響「未定のくせに?」
楓「未定でも社会人は確定だから。その先が未定なだけで。」
響「そうなんか。」
楓「就職かバイトか、悩ましいとこよね。」
響「ぶっちゃけどう違うん?お金もらう為に働くのは一緒やろ?」
楓「働き方?ざっくり言うと、就職ってなると、働いてる時間が長くて、バイトってなると時間が少ない。その分貰えるお金の量も変わってくる。」
響「そんなん、就職の方がいいに決まってるやん。なんで悩むん?」
楓「響はそんなにあたしに女優をやめて欲しいのね。」
響「え?」

楓「就職するなら女優は辞める。バイトにするなら女優は続ける。」
響「あ、そういう。だったら簡単やん!」
楓「…。」

楓「響はそれこそ、芸大行くのはありじゃない。」
響「…楓ならわかると思うんだけど、」
楓「うん。」
響「ウチが行って、芸大って通用するもんなんやろか。」
楓「…知らないわよそんなん。」
響「え?」
楓「通用しないって言われて諦めたかったんでしょうけど、さすがにそんなの分からないわ。大学によってレベルも、求められるものも違うだろうし。」
響「そ、そっか…。」
楓「でもついていけるかどうかだったら、大丈夫なんじゃない?未経験でも入る子っているらしいし。」
響「そっか…。」
楓「響は変にプライドも高くないから、経験者についていけなくて潰れることも…。」
響「え?」
楓「いや。」
響「何。」
楓「ううん。」
響「言ってよ。」
楓「いや…。潰れることはなさそうだけど、諦めることはありそうだなって、今のままだと。それが心配。」
響「…言いたいことは、わかるよ。」
楓「欲がないもんね。どうしても女優になりたいって欲が。」
響「うん。」
楓「まぁ、もうちょっと職業とかは、冒険してみてもいいんじゃない?進路希望なんてとりあえず書いてってだけで、最終的に決めるのなんて来年の今頃でもいいわけだし。」
響「…そっか。」
楓「響は、とりあえず色んな職業の可能性を考えた方がいいよ。」
響「ウチさ、何もかも普通やからさ。」
楓「うん。」
響「ミュージカルに関する技術も普通で、勉強も普通で、なにか飛び抜けてできること、なんもないから。ウチが楓みたいにダンスが上手かったら、絶対ダンス続けてダンサーになるって言ってたし、ウチが舞帆みたいに英語も喋れて才能もあったら、ブロードウェイ目指したいって言えただろうし。」
楓「…。」
響「なんでウチって、なんも出来ないんやろ。」
楓「…それをあたしに言ってどうしたいの?」
響「どう…あ、いや、ただ思った事垂れ流しただけで。」
楓「垂れ流す相手考えなさいよ、マジ。」
響「ごめん。」
楓「あんたは努力したの?」
響「え?」
楓「私がダンス出来るのは元からとか才能とかじゃないの。虹羅が英語喋れて周りから天才だって言われるような事が出来るのだって、彼女からしたら元からじゃない。センスはあったかもしれない。けど彼女も、あたしも、どうしたら上手くなるかよく見せられるかを考えて、努力してきた結果なの。」
響「…ごめん。」

響、無理に笑う。

響「ほんとごめん、そりゃそうよな、分かってたんだけど。やっぱ楓に言うことじゃなかった。」
楓「なんか我慢してるでしょ。言いたいことあるでしょ。」
響「してない。してないし、ない。」
楓「そうやって黙るから、あんた自分のやりたいこととか、自分の本音が分からないのよ。」
響「…。」

響「…知らないよ。」

響「努力しても、出来ないんだもん。うち、センスないんやって。」

泣きながらぽつりと呟く響。

響「出来るやつにはわからんよな、ウチの気持ちなんて。」
楓「…。」
響「こんな本音、我慢した方がいいやろ?」
楓「…面白いじゃん。」
響「…?」
楓「やっと人間っぽいとこ見れた。あんたの。」
響「怒らないの?失望したんやないの?」
楓「そりゃあ、私からしたら申し訳ないけど「だったら寝る間も惜しんで練習しろや」って言いたいんだけど。」
響「うん。」
楓「でもあんた、そういうとこあるの知ってたから。本音が悪いと思って、気をいつも使ってるのわかってたから。なのに急にちょっと本音垂れ流してきたから、拍車かけてやろうと思って。」
響「わざと挑発したん?」
楓「した。」
響「はぁ…。」

楓「響はさ、」
響「うん。」
楓「アタシがスクールの高二生の中だったらこの話わかってくれると思って、今日呼んでくれたんでしょ?」
響「うん。」
楓「どうよ、結果は。」
響「…全然違った。」
楓「後悔した?」
響「それはしてない。色々わかったから。」
楓「次は誰に相談するの?」
響「…まず、自分かな。」
楓「お。」
響「うん。自分の本音とちょっと、話してみようかな。」

響「なんやこれ、何か臭いセリフやな。」
楓「ほんとよ、主人公か。」
響「こんななんも出来ない主人公いないよ。」
楓「ま、また話してよ。なんかなりたいもんとか見つけたら。共感はしないけど話は聞いてやるからさ。」
響「上からやなほんと。…楓も教えてね。就職か、女優続けながらバイトか。」
楓「どうかなー、響に話すとイライラしそうだし。」
響「無理にとは言わないよ。」
楓「気が向いたらね。」
響「うん。気が向いたら。」

楓、響のポテトをひとつ食べる。

響「あ!」
楓「ちょうだい。」
響「いや、遅い。」

響、楓のナゲットをひとつ食べる。

楓「いや、ナゲット一個とポテト1本の重みは違うよ???」
響「一緒やろ。」
楓「嘘でしょ…。」


おしまい


ーあとがきー
小難しい進路とか生き方系の話3連続になりましたね。
無意識なんですが、多分私が今こういうのに悩んでるからなのかと思います。次は何も考えずに読めるやつ書きます。(多分)
楓の進路についても、またどこかで書きたい。
才能のある者と無い者で、見える世界は違いますよね。才能がある人は、才能があると言われたくない。
才能が無い人は、努力してもしても、前者には叶わない。
どちらも努力をしてないわけじゃない。悲しい。ぐすん。

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