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【SS】青春殺人事件 ~序~
「だって、私に興味ないでしょ? 私のこと、好きじゃないでしょ。」
昨日、彼女にこう告げられ、半年の交際に終止符を打った。
悲しくはなかった。だってその通りだったから。
僕は他人に興味が持てない。
他人がどう思ってようが、自分のしたいことをできればよいと思っている。
知ったこっちゃない、他人の評価なんて。
彼女のことはちゃんと好きだった。
講義が一緒で知り合って、相手から熱烈なアプローチを受けた。
笑った顔が可愛いと思った。一生懸命夢をかなえるために、無謀な努力をしているのもアホで愛らしいなと思っていた。
だから付き合ったのだ。嫌いだと思う相手とはいくらなんでも付き合えない。嫌いではないし、ということは、好きだったんだと思う。
ただ、興味はなかった。それは彼女にも伝わっていたらしい。
それはしょうがない。僕は誰にも興味が湧かないのだから。
何かに一生懸命な人間を見るとアホだな、と思うことがある。
ださい。正直に言うと。
それでムキになって、人に当たってる奴を見るのは逆に面白かったけど。
でも自分に当たられるのはごめんだ。いい迷惑だ。勝手にやってろ。
「もっと他人に興味持てよ」とか、「お前も何かに打ち込んでみたらどうだ」とか、いろんな人に言われてきた。
じゃあ他人に興味を持つ方法を教えてほしい。
だって他人なんだ。自分じゃないんだから興味が湧かないに決まっている。
逆に、なんでみんなそんなに他人の心情や行動に興味をもてるのだろうか。
僕は誰にどう思われてもいいと思っている。
お前が僕のことを薄情なAIと思うのであればそれでいい。
僕は僕のことをそうは思わないから。
僕にはちゃんと感情がある。嫌なことは嫌だと思えるし、好きなものもちゃんとある。
ただお前に興味がないだけなんだよ。お前にだけAIなんだよ。ごめんな。
謝る必要もないか。
この生き方が楽なんだ。誰に何と言われようと、この生き方が楽なんだ。
「あの。」
急に右側から声が聞こえた。そうだ、僕は今食堂にいたのだ。
声の方を向くと、見知らぬ男子が2人立っていた。
長身で、チャラそうな見た目をし、ひとりは黒髪ロン毛のいかにもアイデンティティを大切にしていそうな奴と、ひとりは格好だけパンクで顔が塩顔。
どうやら塩顔の方が声をかけてきたらしい。
「これ、あなたですよね?」
塩顔が僕の机に、1枚の写真を置いた。
…見覚えのある写真だ。
スーツをアレンジした衣装を身に纏う12人のステージ写真。
塩顔は、その中の一人を指さした。
それは今では考えられないほど表情筋を使っている僕だった。
僕は塩顔の問いに答えずに、写真には一切触れず、途中まで食べていたハヤシライスにもう一度口を付けた。
「お願いです!あの、俺らダンスサークルなんすけど、今週末大会あって、その、ひとり怪我しちゃって出られなくなっちゃって…。高校の時、踊ってたんすよね?あの優勝グループの一人だったって聞いて、それで、」
「人違いじゃないっすか。」
僕はそれ以上、何も言葉を発しなかった。視線も合わせなかった。
塩顔の熱いまなざしを横に感じながら、眉一つ動かさず、ハヤシライスを口にする。
塩顔は、何かまだ物を言いたげに口をパクパクさせていたが、隣のロン毛が肩を叩き、いつの間にか僕の隣から消えていた。
しっかりと写真も回収していた。
あれは僕だったが、僕じゃない。
だってあいつは死んだから。
…あれは僕じゃない。
ハヤシライスを一気に食べ終え、食器を戻し、リュックを背負って食堂を後にした。
学内の庭では、アカペラサークルや、さっきとは別のダンスサークルが練習に励んでいる。
あーあ。ほんと、かっこわりぃ。