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【シナリオ】写真の中の「私の世界」と「宝物」

ここは小学生から高校生の女の子が通う『WESTミュージカルスタジオ(以下WEST)』。
レッスンが始まる前に、中学3年生の亜冬なずな と、WESTと同系列の『EASTミュージカルスタジオ(以下EAST)』所属の中学3年生の柴崎香織瑠が、広いスタジオのフロアにたくさんの写真を広げて眺めている。
先日のWESTの定期公演のリハーサルに、香織瑠となずなが撮った舞台写真である。
香織瑠の趣味は写真で、以前からWESTとEASTの写真を沢山撮っていた。そんな香織瑠をいつも見ていたなずなは、今回の定期公演で自身の演者としての出演時間が短かったため、香織瑠にお願いし、「一緒に写真を撮ってみたい」と願い出た。

なずな「...(写真を凝視している)。」
香織瑠「...(カメラをいじりながら、なずなの様子を伺っている)」
なずな「...。」
香織瑠「どう?気に入ったのあった?」
なずな「...。」
香織瑠「なずな?」
なずな「いや...全部、すぎて。」
香織瑠「ん?」
なずな「なんか、胸がこう、ぶわぁって、熱くなってる。」
香織瑠「?」
なずな「この写真とか!ほら見て、今にも祭ちゃんがこの写真から飛び出してきそうな絵っていうか、絵じゃないか、写真なんだけど、なんだけど、なんかこう、動き出しそう!」
香織瑠「躍動感?」
なずな「そう!そんなかんじ!ほらこれも、彩奈ちゃんの良さがとても出てる...。」
香織瑠「彩奈さんは歌ってる時の表情がほんとに、美しいんだよねー。」
なずな「カメラってすごいね...。スマホとは全然違う。」
香織瑠「おもしろいだろ。」
なずな「うん、おもしろい!深み?があるね。」
香織瑠「あはは。」
なずな「香織瑠が撮った写真...なんか、香織瑠の世界が見れてる感じがして、ふふ、いいな。」
香織瑠「自分で撮った写真、見ないの?」

香織瑠はなずなの目の前に、なずなが撮った数枚の写真を置く。

なずな「うーん。」
香織瑠「初めてだとは思えないくらいよく撮れてる。このゆうりとかさ、汗まで細かく写ってて。」
なずな「たしかに、綺麗だなって思う。これを自分が撮ったのは、ちょっと考えられないってくらい、いいなって思う。。」
香織瑠「......けど?」
なずな「...ふふ、けーどー、私は香織瑠の写真の方が好き!」

なずな、遠くにあった香織瑠の写真を手に取る。

香織瑠「それは嬉しいな。」
なずな「香織瑠にはこうやってみんなが見えてるんだね!香織瑠の世界。...写真ってすごいなぁ。」

香織瑠はなずなの写真を一枚手に取る。

香織瑠「これは、なずなの世界。」
なずな「わたしのはいいよー。」
香織瑠「なんでよ。」
なずな「香織瑠のがきれいだもん。」
香織瑠「なずなの世界は汚いの?」
なずな「そうではない!けど!私はまだ、表現しきれてない、気がする。」
香織瑠「(写真を見て)そーかなー。」
なずな「そうなの!」
香織瑠「初めて一眼触ったもんね。」
なずな「そう、技術が、足りない。」

なずな、香織瑠の写真を眺めて。

なずな「きれいだなぁ。。」

なずな「ねぇ、なんで写真はじめたの?」
香織瑠「んー、きっかけは一眼をお父さんから譲ってもらったっていうだけなんだけど。今も続けてる理由は...。」

外から、WEST所属の輝、ゆうり、彩奈、祭が入ってくる。
6月に入り気温が上がってきたため、みんな汗を垂らしている。

ゆうり「アーチー。気温バグってんなこれ。」
輝「汗ふきシート」
ゆうり「いるいる、着替えん時ちょーだい。」
祭「香織瑠、にゃずにゃー、おはよーにゃー!」
なずな「おはよう!」
「おはよー」「おー」「おはー」「おはよう」
彩奈「あ、もしかして写真できた?」
香織瑠「リハのやつ、100枚!」
「「おー!!」」
ゆうり「見して見して!私が一番乗り!」
祭「あー、ゆうりずるい!」
輝「新米カメラマンさんのもあるのか?」
なずな「あるけど、香織瑠のがすごいからとりあえず見て!」
彩奈「気になるわね、なずなのも!」
ゆうり「うひょー、この写真いいなー!」
祭「これも!めっちゃかっこいいにゃ!」
香織瑠「被写体がいいからですよ。」
輝「あ、これ。」

輝が一枚の写真を手に取る。

輝「...」
ゆうり「ん?(写真を覗き込んで)うわ、かっけー。これ輝の後ろ姿だよな?」
彩奈「輝は姿勢がほんとうにいいから、後ろ姿本当に見惚れるわよね。」
祭「わかるにゃー!背中で役を語るのがいっちばん上手いのは輝にゃ!」
ゆうり「すげーな、香織瑠これ。」
香織瑠「いや。」

香織瑠、なずなの方を親指で指す。

「「ん??」」
なずな「...それ、(手を挙げる)」
「「まじ!?」」
ゆうり「うわー、すげーななずな。」
祭「これ、ほんとに輝の良さが滲み出てるにゃ。」
なずな「ほんと?」
祭「うん!」
なずな「えへへ...輝の後ろ姿、私いつもすごく好きだなって思ってたから。」
彩奈「いつもレッスンを一緒に受けてるからこその写真ね。」
ゆうり「やるじゃん。」
なずな「えへへ、私、westのみんなを1番近くで見てるから、みんなのいっちばん素敵なところ、分かるんだ。」
香織瑠「その人を好きな人が撮る写真ほど、魅了されるもんはないってことよ。」
輝「そう言われてみれば、このゆうりの写真も、彩奈のこれも、祭はこれか、他のみんなのも。」
彩奈「その人の良さをわかってる人が撮る写真って観点で見ると、どれがなずなが撮ったか分かるわね。」
なずな「ゆうりは必死な時に滴る汗が素敵、祭ちゃんは踊ってる時の手足のしなやかさ、彩奈ちゃんは相手役を見つめる時。」
ゆうり「お前はほんとに、westのファンだもんな。」
なずな「うん、大ファン!」
輝「香織瑠の写真は、美を追求して多方面から受け入れてもらえる作品、なずなの写真は、その人の良さがいちばん伝わる作品って感じだな。」
祭「同じ写真でも撮る人が違うとこんなに違うんだにー、なんか、世界観?が違う。」
香織瑠「なずなの世界も良いって言ったでしょ?」
なずな「なんか、、少しだけ自信ついてきたかも!」
香織瑠「ふふ。」
祭「にゃずにゃ、また撮ってよ!」
なずな「え?」
彩奈「まぁ、なずなもwestのメンバーだから、今回はたまたま出演シーンが少ないからカメラをお願いしたけど、もしまたそういうことがあったら、お願いしたいわね。」
なずな「...!」
ゆうり「あ、だからって演者やめようとすんなよ?なずなが1番輝くのはステージの上なんだから。」
輝「なずなが良かったら、稽古場写真とかでもいいかもね。」
祭「あ!それいい!オフショットとかも!」
ゆうり「SNSあげたら、またWESTのファン増えるかもな。」
なずな「こんな私が撮っていいの?」
彩奈「こんな写真撮ってくれるなずなにお願いしたいわよね。もちろん、なずなが良かったらだけど。」
輝「香織瑠は所属が違うから、なかなか一緒にレッスン受けられないしな。」
香織瑠「そうですね。」
なずな「...わたしも、もっとみんなのこと撮ってみたいな...!」
祭「よっしゃ!」
なずな「だってわたしが、みんなの良さ1番知ってるもん!」
彩奈「ふふ、ありがとう。」
ゆうり「なんか、楽しみだな。」
祭「わくわくするにゃ!」
香織瑠「今度また色々練習しようか、写真の撮り方。」
なずな「いいの?!」
香織瑠「もちろん!一緒に良いカメラマン目指そ?WESTと、EAST(香織瑠所属のスタジオ)の専属カメラマン同士。」
なずな「...!うん!!」

写真はいい。その人の良さが絵として伝わる。みんなに伝わる。
私は、大好きな人を撮るのが好きなんだ。大好きな人を撮って、その人のその瞬間をファインダーに閉じ込めて。そしてその写真が、その人の良さが世界中に広まっていくのを感じるのが、たまらなく好きなんだ。それが私の写真を撮る理由。
なずなも、いまそれがきっと、わかったんじゃないかな。
あー、みんなの笑顔が眩しいな。そうそう、こういう瞬間を宝物として閉じ込めて、それをみんなに広めたい。
そう思いながら、柴崎香織瑠は、いまこの瞬間の5人の笑顔を、シャッターを切って閉じ込めた。


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