#1 - 1 うきうきと。
演習問題
語り(ナラティヴ)を意識して書くこと。
たったったったの足音がすこおし緩んで、俥夫が柄を地面へとおろす。
おおきにーとか決まりきった言葉を、きゃあきゃあいう標準語がかきけしていく。
「おにいさんの背中、まじやばかったー」
「記念にちょっとさわっといたらよかったかも!」
旅の恥はかき捨てっていうけど、あっこまで大声で、完全におばちゃんやん。あーいやなもん見てしまったわ。こんなんもう見たくなくて、見たくないから出ていったのに。
「なんや、ひっどい顔してんなぁ。おいでやすーにこっはないの?」
額に汗がにじむユキにいに、冷たい麦茶を差し出す。まるい、清水焼の湯呑みがユキにいのてのひらにすっぽりと収まる。柄を持つ手、湯呑みを持つ手。丸いものに沿うように、自然とカーブしている手。
「あんなんセクハラやん、なんでへらへらしなあかんの」
うちはとがってとげとげで、自分を多く傷つける。しゃあないやん。そのしゃあないが、しゃあしゃあ増殖するんやん。
答えなんかわかってる、なのについ言ってしまう。こんな自分が嫌い。たったったったと遠くへいってくれたらいい。
うちらはこのまちの景観で、観光資源。
柿色の作務衣の、背中の筋肉の。
風が吹いたら柳になる。そうやって生きていく。
いつか乗せたるわ。そう言って笑った顔が、たったったったと遠ざかる。
おおきに。うそでもうれしいわ。
ほんまはそんな小声も嘘で、心臓だけが跳ねている。
おまけ。
つけようかとおもったけど、とりさげ。
お題はうきうき、
やのになんかいらいらととげとげ。