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短歌「空蝉」


諦めて裂かれ蹂躙される胸
セカンドブルーインパルス
飛行

 2020年 5月29日。
 医療従事者に感謝を伝えるため、と、ブルーインパルスが飛んだ。
 防護服が足りず、大量の雨ガッパが病院に届けられた頃だ。
 レッドゾーンで防護服が脱げてしまう夢を、何度も見た頃。
 ありがとうと感謝されながら差別される。
 分断の空を見上げよ、受け入れよと言われ、諦めのなかにいた一度目。

 2021年 7月23日。
 医療者の反対むなしく、東京五輪は開会式をむかえた。
 わたしにとっては耐え難いセカンドブルーインパルス。
 高度経済成長の亡霊にとりつかれた老人たちは、十月十日の空を夢見る。
 現実の空は、淡く濁っていたのに。

 2021年8月23日
 五輪による感染爆発で、もう病床はない。
 華々しいスポーツ大会の影で、働き盛り、子育て世代が次々と重症化する。
 感染した妊婦が自宅出産を余儀なくされ新生児が死亡しても、パラリンピックが幕を開ける。
 苦しい。蹂躙される。
 そう思ってしまうひとは、もうわたしだけではないはずだ。それでも、
 明日。
 また、飛ぶ。

蝉落ちて
あなたの胸が何度でも空に裂かれる
東京五輪

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