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掌編小説集『十三夜(いまだみちず)』

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ちいさい小説をここにおきます。 マガジンタイトルには  十三夜 に  あとすこしで満ちるのだという  不遜な態度と  いまだみちず に  あと二日をじりじりと歩むようすを 表現…
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#掌編小説

ばいばい ばいばい

ばいばい ばいばい

#古賀コン5  

 肉を切らせて骨を断つのって言ってたセンパイが泣いてる。その話を聞いたときから、切らせる肉はやたらリアルなのに断つはずの骨がなんだかふわっとしていて(骨やのに。ぼやっとしようもないのに)ゆうたらセンパイはいっつも肉を切り売りしてばっかりで、ほんまはいっこも骨には触れてへんのんちゃうん?
 思ってたけど口にはできひんかって、それはその、センパイにも立つ瀬やら面子やらあるかもしれん

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「鬼芥子姫」

「鬼芥子姫」

阿瀬みち編
人魚アンソロジー『海界』より

「鬼芥子姫」

  

 差し出された盃を受け取りひとおもいに飲み干した。膳からみっつの骸骨が、こちらをみている。
 居並ぶ男たちのだれもが困惑するなか、兄ひとり満足そうに髭を撫でた。
「さすがわが妹よ。剛腹である」 
 市はほほえんだ。
 しゃれこうべの頂きはよく塗られ、肌がまろやかであった。ゆるやかな曲線にくちづけて傾ければ、艶やかな紅を損なうことな

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掌編小説「ガラシャ殺し」

掌編小説「ガラシャ殺し」

ーー侍女清原糸曰く

ガラシャ殺しーー清原糸曰く
              こい瀬伊音

 その茶碗を、「夫」は時々取り出して眺めた。正座した膝のまえに置き、ぬかづくようにしながら眺める。曲線、粒だった肌。釉の加減でくるまれたところと地肌を剥き出しにしたところ。ゆっくりと愛でたあと手に取った。つるりと丸みを帯びた側面から指のはらを這わせ、ざらりとの境目を撫でる。そのときには目を閉じていて、いえ、

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「旅と器とプレイ宣言」

「旅と器とプレイ宣言」

 (イグBFC3提出作品)

 初めての海外旅行はタイだった。スウィートナインティーンガールズ三人旅。
 バンコクの街中で、先っちょがまるまってる文字が溢れてて、ここはどこ? がさっぱりわからなくなったとき、羅針盤みたいなアルファベットにはなかなか出会えなくて、私たちは途方にくれていた。
 私とミユが地図をのぞきこんでは、ここちゃう? 違うって! とやってる間、ノンは野良犬の道路のわたり方なんかを

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「ひかりのトンネル」

「ひかりのトンネル」

果樹園SF
「ひかりのトンネル」

 みーんみんみんみんみんみん。
 あっちいな。
 ぼくはサマースキルを一ページめくってみただけで飽きてねころんだ。なんだかいいにおいでつい鼻をすんすんしながら横向きになる。目の前には黄色の、畳の目が並んでいる。横になでるとすべっとして、縦になでるとざりっとする。ほっぺにはたぶんくっきり横の線がついてるはず。スタンプみたいに。
 扇風機はぶーんとやる気のない音をた

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