鼻
十数年ぶりに、学生時代の友人と食事をした。
一人は仲が良かった友人。
もう一人はその友人が仲良くしていた私にとってはただのクラスメイトの男子だ。
卒業してから疎遠だったが、友人とは確かに仲が良かった。
ほぼ毎日を一緒に下校していたし、よく一緒に買い食いをしたり、プリクラを撮ったりした。
なんなら出来たばかりのディズニーシーに二人で行って丸一日を楽しく過ごした事もあった。
しかし
はて、私達はいつも何を話していたのだろう?
友人とは私はまったくタイプが違う。
むしろ真逆だと思う。
共通で好きだったことも特に思い出せない。
そして今も共通点は特に無さそうだ。
一抹の不安と疑問を抱えたまま宴は始まる。
結果、とても楽しかった。
クラスメイトだった男子は友人に倣って私の事を愛称で呼んできて
「こいつ、本当は私の名前を覚えてないんじゃね?」とも思ったけど、元気そうな姿を見れたことが、なんだかとても嬉しかった。
全員が親という立場になっていたから、共通の話題はあった。
過去に一年間同じ空間に居て、今なんとなく同じ条件というだけで楽しく盛り上がれるなんて、人間関係なんて意外とお手軽だな、とすら思った。
それぞれから『今』の話を聞く。
すごくいい。
前に違う友人と集まった時はそこに居ない誰それが今どうだ、という情報ばかりで話題が尽きて最終的にオバケの話をして終わった。
オバケの話が一番面白かった。怪談サイコー。
それ以来集まっていない。
なんか、ま、いっか、という感じで時が流れてゆく。
『今』は『過去』と当然ながら繋がっていて、彼らが高校時代に築いたものが今の糧になっていた。
私は彼らのことを全く知らなかったのだな、と思った。
彼らは二人とも自分の話をすることに抵抗が無かった。むしろ嬉々として話す。
たっぷり時間をかけて起承転結、十に至るまでの一からをしっかり話す。
もしかしたら七とか八とかは飛ばしてるかもだけど、自信満々にその時間を支配するのだ。
私はそれをふんふん聞いている。たまに茶茶を入れたりしながら。
目を見て聞いている。
眉間を見ながら聞いている。
鼻を見ながら聞いている。
すごく見慣れた鼻だ。
すごく見慣れている。
そうだ、彼女の鼻はこうだった。
ちょっと鷲鼻だけど鼻梁がスッと通っている美人。
とてもとても久方振りの再会であるにも関わらず、タイムスリップしたかのように、昨日もその鼻を見ていたかのような気持ちになった。
きっと私は、学生時代もこうやって過ごしていたに違いない。
教室で向かい合いながら。
電車で隣に座りながら。
時にもんじゃ焼き屋さんで鉄板を挟んで。
相槌を打って、自分の思考を混ぜて返す。
話し手と聞き手としてたぶん成り立っていたのだ。
誤解を与えてそうだけど、彼女の話はちゃんと面白くて魅力的だ。
オチがつくように、練られている。
きっと頭が良いのね。
私も無口な聞き手ではないので、ご安心いただきたい。
ちなみにディズニーシーに行った時の暇つぶしを思い出した。
バーチャル野球拳、だ。
その名の通り、その時着ている服で、想像力で野球拳をする。
ジャンケンをして、何かを脱がせる。妄想空間で。
「全裸に靴下にしてやる!」とか言いながら大笑いしてた気がする。
書き起こしてみると大して面白くないな。
一日もつぐらい面白かったんだけどな。
あっぱれ十代、ってとこかな。
次に会うのは何年後か。
また会えるといいな。