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がん治療におけるファシアの重要性

 現在、ファシアについて、というかマトリックス医学の全体像についての解説を書いているところなのですが、その中でも、がん治療との関連性は極めて大きなものとなっています。
 そうした思考のきっかけとなった文章があったので、当時の掲載誌の文から少し改編してこちらに掲載します。来月初めがカフェで「ファシア」を扱うので、そちらに参加予定の方は予め読んでおいてください。

がん治療におけるファシアの重要性

統合医療とは何か

 まずは統合医療とは何かという話から始めることにしましょう。統合医療とは、現代医療に補完代替医療を統合した医療という意味をもちます。それが主張する人の立場や考え方によって、多彩な形に分化し、今日の多様な意味合いを持つに至ります。
 私はそれらの特徴を踏まえて、教条主義・折衷主義・多元主義・統合主義の四つに便宜上、分類しています。
 この中でも多元主義は、医療職における多職種連携とも関係してくるので最後にまとめて述べるとして、がん治療の場面で、重要な側面を有するのが統合主義になります。そこで本稿では、具体的に当院で行っている統合主義的な取り組みの基礎となる概念の「ファシア」と、そこからがん治療への新展開の可能性をご紹介していきましょう。

ファシアとは何か

 ファシアとは、これまで「筋膜」と訳されてきた用語ですが、正確には筋肉の膜にとどまらず、幅広く結合組織や腱・筋膜などを表すものとなります。つまり、皮膚や内臓、筋・骨格といった従来の解剖対象のもの以外「全て」にあたりますので、視点を変えれば「人体最大の臓器」と捉えることもできるわけです。
 これがなぜ、統合主義的な用語かというと、経絡システムや瘀血・水滞といった東洋医学的な概念と、気・波動・量子といったエネルギー医学の基礎を、現代医学的に説明するのにピッタリの考えだからなのです。まさに統合医療を具現化している用語といっても過言ではありません。

ファシアからの新たながん治療戦略

 これまで東洋医学的世界では「がん」は、気滞や水滞が瘀血と絡まる形で形成されてくるものと理解されてきました。いわゆる汚れた血、停滞した血が「がん」などの病理産物を発生させるという考え方です。それゆえに悪い血を抜く方法として「刺絡」という鍼法が生れてきたと言えるでしょう。
 しかし「悪い血」というのは、そもそもどんなものなのでしょうか。こうした表現は常に現代西洋医学側からは疑問を呈されてきたものでもあります。またこれに関連して、首や肩の凝りのようにゴリゴリのスジのように触れる所も実際はどうなっているのか、こうした実践的な混乱を解決してくれるのが、ファシアという概念なのです。つまり、うっ滞した血管の周辺には、ファシアも多く存在し、ファシア内部には炎症性物質を溜め込んだ形になっています。そこを針で浅めに刺し(刺絡)、カッピング(吸角)により陰圧をかけます。これにより血管およびファシア内の液体が、内部の炎症性物質(グロブリン等)とともに引くことが出来ます。つまり身体内部でくすぶっている慢性炎症のタネを除去することが出来るというわけです。
 ファシアを介した治療は、刺絡に限りません。肩こりや腰痛の時に現れる「硬結」は、ファシアが互いにくっついてしまった状態(重積)と考えることができ、そこに生理的食塩水を注入して、重積状態をほぐすこともできます。瘀血などの東洋医学的病理産物や、身体の歪みによる固縮による内圧の亢進は、それ自体が「がん」の発生・拡大・転移の大きな原因とされています。これらの病態は、ファシアという考え方を知るだけで、具体的に刺絡やハイドロリリースといった手技により改善することができます。さらに広く、鍼灸一般や、整体、漢方の腹診へも応用可能となります。
 がんそのものの性質ばかりではなく、その周辺状態へと視点を転換することでがん治療さらに大きな可能性を有することができるのです。

線維化

 医学研究の分野では「線維化」と疾患の関係に大きな注目が集まっています。従来はがんや動脈硬化の源といわれる慢性炎症の、なれの果てのような扱いだったのが実はその病態に大きく関与していることが分かってきました。
 この線維化もファシアと大きく関連します。線維芽細胞の形成するコラーゲンが、ファシアの基盤となり、そこから形成される瘀血や重積となって、いわゆる臓器の実質細胞と相互作用しながら線維化に進展すると考えらえています。一般的にがんの物理的特性として硬く閉じ込められた状態で、増大・転移しやすいといわれます。その意味では、ファシアを操作することで、がん周囲の固縮した状態から解放するというがん治療における補完的な役割を担うことができます。
 統合医療の権威アンドルー・ワイルの強調する自発的治癒力というものも、こうした固縮状態からの開放によってそのスイッチが入るようなものなのではないでしょうか。

ファシアの異常は実際にどのようにして解るのか

 それではファシアの異常は、どのようにしたら捉えることができるのでしょうか。直接的に観察する方法としては「超音波検査」が挙げられます。体表モードで皮下のファシア重積などはその概容を捉えることができます。
 またそうした重積の原因となる粘りのもとは、光学顕微鏡や、さらには暗視野顕微鏡でフィブリン塊や赤血球連銭としても観察可能です。毛細血管との関係を直接観察するには毛細血管顕微鏡によりリアルな実態が観察できます。こうして観察されたものの基本はコラーゲン線維です。つまり基本構成成分であるコラーゲンの状態がすべての基本となるわけです。生体であれば、このコラーゲン周囲にびっしりと水分子が存在し、その状態は、ある種の波動治療器やホメオパシー、アーシング等によっても影響を与えることでき、それらの治療の理論的基盤となっています。

おわりに

 このようにファシアという用語を用いると多くの統合医療に関する領域を統合できるように なります。そしてこの新たな視点はこれまでの治療法の壁を超える可能性を示し、新たな治癒への道のりをもたらす可能性があります。
しかしそれはたった一つの考えでがんが治るといった安直な方法ではありません。
様々な身体への視点、さらには心理・精神的視点、社会・経済的視点も欠かすことができません。
 つまり現実の統合医療は、多元主義であることが現実的なのです。このため当院ではジャングルカンファレンスといった統合医療のカンファレンスを定期開催し、様々なセラピスト(リフレクソロジー・骨盤調整・キネシオロジー・靴調整・アーシング・心理カウンセリング等々)とともに意見交換・対話を続けています。世界の趨勢たる統合医療は、統合主義的な新たな視点を提供しつつも、現実的には柔軟に多元主義的な対話を継続する医療として一歩ずつ発展していくのではないでしょうか。


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