小さな診療所から(2)改:がん統合医療 栄養療法 免疫療法
60代女性、乳がんの術後で化学療法中のAさんです。
乳がん発症前から、あまり「肉類」は食べなかったとのことで、ごはん・野菜を中心とした食事だったようです。術後も、肉は体に悪いのではないかと思い、避けていたということでした。
化学療法による体調の不良と、現状に対しての不安や医療への不信など、精神的ストレスを強く抱えている状態で受診されました。
それでも一時期は相当のストレスだったようで、心理カウンセリングにてかなり改善の方向には進んでいるようでしたが、とにかく心身ともにエネルギーが不足しているといった印象でした。
当院ではこうした方には、まず「食事記録」をとって頂きます。どのようなものを毎日食べているかを、詳細にチェックします。何が良い、何が悪いではなく、まずは現状を知り、その過不足をともに考えます。またある一定の考えに固着した食養生法をとることもありません。不調をとる方法を、一緒に考えていきます。「身体は知っている」という立場です。
これによりAさんは、肉類をはじめとしたタンパク質の摂取が極めて少ないことが分かりました。タンパク摂取が少なければ、血液検査においても白血球(とりわけリンパ球)が減少してしまうことは広く知られています。そして、タンパクが少なければ、当然、糖質過多もあるわけです。これは東洋医学的にも「湿」を増大させ、五臓で言うところの「脾」に負担をかけてしまいます。
一般に肉類を以前からあまり食べ慣れていない方にとっては、タンパク質をとれ、といってもなかなか急には摂取できないのが現状です。
しかし、そうした方でも、卵や魚などは、比較的摂取しやすいようです。なかでもアミノ酸スコアを考慮すると、卵はかなり有効です。1日に2~3個いけるとかなり体調改善が実感されてきます(オムレツなどが食べやすいようですが、あまり頑張りすぎると気持ち悪くなるので要注意です)。
それでも十分なタンパク摂取は難しいという方も少なくありません。こうした場合、液体でのプロテイン摂取をおすすめします。いわゆる「プロテイン」です。最近は、かなり味のバリエーションも多く、各社特徴が様々あるのですが、基本的には、いくつか試してみて、飲めそうなものを選択してもらうというのが良いようです。これには当然、人工甘味料など「からだに良くないもの」も含まれますが、経験的にも低たんぱく状態をスムーズに脱することができ、元気を取り戻しやすいというメリットがあります。つまり「良い悪い」を一元的には決めにくいという良い例なのです。時と場合によっての「使いよう」というわけです。
Aさんもそうですが、無理に食べていたご飯(糖質)の量を少し減らしてでも、タンパク質摂取を心掛けると、体調はめきめき改善することは少なくありません。
プロテインで慣れてきたら、卵などの食品でのタンパク摂取にも抵抗がなくなるようです。そこまでの「橋渡し」として考えても良いでしょう。
また、これと同時に、ビタミン・ミネラルの摂取も必要です。当院では十分なサプリメントの摂取も併せておすすめします。これまでの食事内容から、エネルギー代謝に不可欠なビタミンB群の不足が多く認められ、これが十分でないとせっかく摂取したタンパクも有効利用できないわけです。
こうした栄養の補給で、これまでの化学療法などの治療の続行を躊躇っていた方でも、前向きに治療続行が可能になってきます。A さんも、力がついてきたということで、現代医療との併用に、日々前向きに取り組まれています。
一般に「がんの統合医療」というと、免疫療法や点滴療法などの高額な治療が良く知られていますが、個々の身体の状況に合わせて戦略的に栄養を駆使するという地味な方法は忘れられがちです。また「栄養は大事です」という説明だけで、具体的な説明がないまま、高額なサプリをその意味も解らないまま摂取している方も少なくありません。
まずは自分の身体の状況を知り、何故、その栄養素が重要なのかを理解してから納得の上で、十分な栄養を摂取することがなにより重要であると思います。
人は苦しい状況下では、どうしても派手な治療に引き込まれやすくなります。しかし、そうした中で地に足の着いた「栄養」を、一人でも多くのがん治療中の方と語りながら、ともに考えていきたい思います。それこそが「免疫力」の源であると考えます。そうした確固たる基盤が出来れば、現状の化学療法などの標準治療のみならず、免疫療法などの補完的治療もより有効性が高まっていくのです。