皮・肌・身の三層モデル 定常波をファッシアとして見る方法論
先週は、当院の診療における3ステップの解説をしましたが、栄養内科・経絡内科・漢方内科といった各分野の守備範囲としてではなく全体的なお話をしたいと思います。そのためにはまず身体を「皮」「肌」「身」と3層構造で考えたいと思います。「身」は「肉」としても良いのですが筋肉のみならず、内臓(臓腑)であることも考慮して、広く「身」としました。
まず「身」を中心に皮や肌、すべてに必要な栄養素が行き渡ることが前提になります。最低限必要な栄養ということではなく、すべての化学反応を十全に駆動することができるように、不足する箇所がないように、オーバーフローさせる量ということになります。分子栄養学を展開された三石巌先生のいうオーバーフローのイメージです。
当然、この改善だけでも多くの不調や疾患が治癒へと導かれます。東洋医学を専門にしている方の中には、ここで十全大補湯のような「補剤」を用いることが多いでしょうが、それはむしろ栄養素の分配に近い役割に思います。(江部洋一郎先生が補剤で元気が出るのなら食事をせずに十全大補だけ飲んでいればいいのか、ということをおっしゃっていたのが思い出されます)
三大栄養素の適切な量とバランス(これは体質・疾患によっても異なりますが)や、不足しがちなビタミン・ミネラルの摂取により、多くの不調が回復していくのは、近年の分子栄養学の興隆をみると分かり易いでしょう(サプリの一般化からも同様ですね)。
次は連絡システムとしての生体の構造です。特に皮と身に挟まれた「肌」の部位、ファッシアといってよい部位です。ここに「瘀血」「水滞」などの病理産物や、外傷や老廃物蓄積による「ファッシアの引きつれや重積」が生じてきます。
こうした蓄積物により神経や血管、さらにはファッシアなどの生体マトリックスによる情報伝達が円滑に行えなくなってしまいます。そこでこれらを除去し、健常な状態へ再生することにより生体の「自己治癒力」を高めやすい状態へと導く。これらは当然「気血」の流れを円滑にすることですから、直接的な痛みや不調の改善にもつながり、このアプローチ単独であらゆる症状の改善にもなるわけです。狭義でとらえるなら鍼灸治療はこれがメインだと言えるでしょう。
ここまでを前回の地球モデルでかんがえると、地球や電離層への十分な電気エネルギーの補充が「栄養面」で、地球や大気圏での淀みのような障害物の排除・浄化が「経絡面」と言えるでしょう。
つまり大気圏内の定常波による情報伝達こそが、アナトミートレインや経絡システムそのものと考えることが出来ます。そして、これが全身をひとつにまとめあげているのです。
3番目が、「特異性を有する伝達」とでもいえるものです。特異伝達です。この概念は一見難しそうなのですが、多彩な伝統医学や代替医療の方法論そのものともいえます。
つまり特異的な症状や、病変部位に対して選択的に方向付けを行うものです。治療のベクトル性を持たせると表現しても良いでしょう。
そのための方法論として、漢方による腹証のイメージが分かり易いでしょうか。ホメオパシーでの臓器特異性や左右の方向性、SRPなどもこれに応用できそうですし、十河孝博先生による経絡現象学も応用できそうです。特に鍼灸との関連で、十河先生の経絡現象学は複数の経穴の組み合わせから「臓器特異性」を示すことが出来る方法で、東洋医学関連の方にもあまり知られていない方法論なのですが、この特異伝達のイメージには最適な概念と考えます。全身の栄養と伝達の整備をすることで、自己治癒力を高め、そのベースアップした状態で、現在の病的状態を特異的に修正していく、というところでしょうか。
これらは各々が単独でも十全な治療体系であり、組み合わせる必要のない場合もありますが、いわゆる治療における「死角」を減らすという意味でも、組み合わせたほうが圧倒的に有意義という実感があります。
実際の症例での適応としては、アトピー性皮膚炎の患者さんであれば、血液検査により明らかに欠乏した栄養素を食事指導やサプリメント補充により是正、その後、特異的な皮疹や瘀血を生じる部位に対して、刺絡療法や良導絡など鍼灸治療を加え全身の滞りを改善します。これにより皮膚状態が改善しやすいベースを作り、その後に、漢方やホメオパシーにより皮疹の特異的な部位へ治癒力を方向付けていきます。ちなみにホメオパシーとしてはGraphiteが、部位や炎症の度合いにもよりますが屈曲部皮疹への誘導としては有効なようです。経絡現象学的には跗陽に表現されてくるようです。(方向付けの話題はまた改めて記載していこうと考えています)
統合医療的な診療の観点の一つとしてメモしておきました。