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図書館へ本を寄贈をする時は、

私は出版社の小冊子(PR冊子?)が好きでよく読むのだが、先日見たものに掲載されていたのが、著者(小説家)が大学図書館へ自著を寄贈したが、どうやら受け入れられなかったようだという内容であり、著者本人はあまり納得がいっていないような書き方であった。

これは、これは、、うーん

一言でいえばつらい。著者も受け入れてもらえなくてつらいだろうが、図書館員も相当つらい。

大学図書館では、学外者や企業、出版社からの寄贈が存外多い。年間で200~300冊はあると思う。その内、事前連絡をくれるのは3%くらいの印象だ。だいたいがいきなり届く。

これが困る。どこの図書館にも必ず収集方針がある。この収集方針に該当しないものは受け入れることはしない。図書館員的には“できない”という方がより心情的に近い。

司書は本の価値を判断する立場にはない。個人的に『これは素晴らしい本だ!大好き!』と思っても、口から出るのは「本学の学部学科に関連がないものは受け入れられません」だ。この世の学問、知の体系は全て繋がっているので『これはこの分野と繋がりがないとはいえないけどな・・・』と思っても「書庫の狭隘と現状のカリキュラムを考えればそこまで収集範囲を広げる余裕はありません」と言う。(「狭隘」=「きょうあい」と読む。このことについては後述する)

私自身、本の価値というものを非常に高く見積もっている。さらに基本的には全ての本に等しく価値があると考えている。だからこそマッチングを非常に重視する。収集方針に、蔵書構成にマッチするか。もちろんその収集方針が利用者やカリキュラムにマッチしているかも適宜確認する。

このケースも単純に現代小説がマッチしないと判断されただけであろう。作品に非はない。例えば、そこの大学に文学部があり現代小説を研究している教員がおり、学生への講義も行われていれば寄贈を受け取っていた可能性はあっただろう。

また、最近メディア系の本で映画や文学作品に登場する障害者の書かれ方を分析するという内容の本を見た。そういう観点で小説を研究資料に選ぶこともあるだろう。

著者は自身の本をその大学で誰にどう学術的に利用してほしくて寄贈したのだろうか。

この著者の意図はわからないが、寄贈者はみなさん「学生に読んでほしくて・・・」くらいの気持ちでお送りくださっているのだと思う。実際、読書振興を目的としたコーナーがあり小説を蔵書としている大学図書館もある。だがそのコーナーにも収集方針はあり、適合すれば受け入れられる。そうでなければ受け入れられない。

だから事前に寄贈の受け入れが可能か問合せてほしい。収集方針に沿う本であっても、すでに業者に発注済とかであれば(図書館では出版予定情報を基に発売日の数か月前に発注していることも珍しくない)複本(同じ本の2冊目)を理由に断ることもある。

作家にとっては我が子のように思っている作品を・・・と思ったかもしれないが、寄贈の受け入れを強要するというのは、収集方針に踏み込む行為だ。それはたとえ相手が国であっても拒絶する。たとえば、国が全国の図書館に特定の本を送って蔵書とするように通達したら大問題だ。少し前に文部科学省から各図書館宛に拉致問題関連本の充実を促す主旨の事務連絡が出されたが、日本図書館協会はこの文書を是認できないと発表している。

我が子のように大切に思っている本なら根回しなしに送らないでくれ。司書だって、もったいないなぁと思って処分していますよ。正直、余計な罪悪感を背負わされていると思っている。でもこの罪悪感を人質に収集方針を曲げることは許されない。

あと、対応に困るのが送り状に館長や学長宛と書かれている時だ。館長や学長個人への贈り物なのか図書館に置いてほしいのか意図がわからない。特に“○○大学学長様”と宛名に書いてあるものは図書館に届かず、図書館員は寄贈の事実すら知らないこともある。

最も悪、つまり最悪なのは「寄贈を受け入れない場合は返送してほしい」という手紙が同封されているものだ。これはもう本当にコストしか生み出さない。配送費を往復分かけて無駄に本を行き来させる。逆にすごい。本の気持ちになってしまうと・・・

親「お前は今日からあそこの家の子になるんだ。行ってきなさい!」
本「はーい」
図「え?聞いていませんけど?帰ってください。」
本「しょぼーん」

いたたまれない。

と、いうことで図書館に本を寄贈する時は、事前にその図書館に連絡してください。本の内容や所蔵を調べてから返事したいので、メールだとありがたいです。


さて、話は変わって狭隘だ。

現在、公共・大学を問わず書庫の狭隘が問題でない図書館はほぼないだろう。狭隘というのは簡単に言えば“書庫が本でいっぱい”という意味だ。

本はものすごく重い。そのため図書館に設置されている書架(本棚)は頑丈で丈夫で大きくて重くて価格も高い。オーダーメイド的なものも多い。床の耐荷重も必要だ。書架を増設するということは極めて困難なのだ。

最初に入れた書架の収容可能量で50年以上やっていかなければいけない図書館がほとんどだ。だが本は毎日のように出版される。収集方針に合う本があれば購入する。書架が埋まる。この繰り返しであっという間に書架はいっぱいになっていく。

狭隘の問題は本当に深刻だ。場所というのはどうしようもない。地域での分担保存や外部に書庫を借りたり、内容を見て除籍(廃棄)しなくてはならないこともある。本当に本当にしんどい。

ちなみに書架に本がおさまらない時の裏ワザとして、貸出数を増やすというのがある。テーマ展示等でアピールして利用者に借りてもらうのだ。そうしたら貸出期間中は書架が空く。完全に付け焼刃だが。


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