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創造的活動の3ステップと生成AIとのコラボレーションスキル┃1.設計する

大企業の新事業開発プロセスにおいて、生成AIの影響は非常に大きいと感じています。NEWhでは、従来、プロジェクトのキックオフから事業機会を定義するまでに2〜3ヶ月程度かかっていましたが、最近では2週間で完了した事例も出てきています。これは生成AIの力がなければ不可能だったと思います。

しかし、ビジネスデザイナーやコンサルタントの中には、生成AIに対する知見や理解度にばらつきがあるのが現状です。中には事業開発での活用に懐疑的な人もいるかもしれません。一方で、私自身は生成AIを夢のようなツールだと感じています。

そこで、本記事では、私が新事業開発で実践している事例を紹介しながら、新事業開発のみならず、創作的な活動全般においてAIをどのように活用していくべきかを考察していきたいと思います。また、ツールを適切に活用するためには、我々にもスキルが必要不可欠です。生成AIとコラボレーションしていくためのスキルについても言及していく予定です。

これからの時代、生成AIは新事業開発、そして創造的な活動に欠かせないツールになっていくはずです。その可能性と向き合い、活用方法を模索していくことが、イノベーションを加速させる鍵となるでしょう。人間とAIがコラボレーションする時代に備え、我々自身も成長していく必要があります。

創造的活動の3ステップと生成AIの活用

創造的活動の3ステップ

創造的活動の3ステップ

私は、創造的な活動は「設計する(Framing)」「創造する(Creating)」「決断する(Deciding)」の3つのステップを繰り返すプロセスだと考えています。

「設計する」では、目的や制約条件を明確にし、アウトプットのための枠組み=ルール/フレームを設計します。設計の品質を向上していくためには、問題設定に必要な情報を収集し、全体像を把握することが重要です。新事業開発であれば、メガトレンド、競合企業/サービス、技術、法規制/政策などの情報を、デスクリサーチやエキスパートインタビューなどで収集し、市場の概況を掴みます。

「創造する」では、設計に基づいてアイデアを出し、具体的な成果物を創造します。アイデアを幅広く検討したり、改善を繰り返したりしながら、目的や要件を満たすアウトプットを目指します。新事業開発であれば、事業機会、事業コンセプト、収益モデルなど様々なアイデアを、ワークショップなどで発散/収束させながらフェーズと目的に応じたアウトプットを創造します。

「決断する」では、創造された複数の選択肢から最適なものを「決断」します。事前に合意した基準でアイデアを評価し、方向性を絞り込んでいきます。新事業開発であれば、事業規模、顧客ニーズ、実現性、リスクなどが一般的な評価基準となります。

サイクルの大きさは異なりますが、この3ステップを繰り返すことで、創造的活動は進展していきます。

生成AIは「創造」を民主化する

生成AIによる創造の民主化

生成AIの登場により、「創造する」の一部は民主化されつつあります。事業機会やコンセプトの創出など、生成AIを活用したアイデア発散を経験された方も多いのではないでしょうか。(ただ、期待通りの良いアイデアが出なかったという声も聞きます。)Webサイトが3分で作れる、動画の品質が高すぎるなど、生成AIの性能の高さに驚く声も多く聞かれます。今後、生成AIは加速度的に「使える」品質レベルに到達するのは間違いないでしょう。

一方で、「設計する」と「決断する」の重要性はむしろ高まっています。生成AIを活用するためには適切な指示が必要であり、設計/フレーミングの質が問われます。また、生成AIが出力した選択肢を評価し、採用するかを人間が「決断する」必要があります。新事業開発では、自社の目的に合わせて、新事業を検討するための領域・範囲、事業規模、到達時間などを決める要件定義、評価基準とステージゲートの設定が、一番最初に「設計する」ことです。さらに「創造する」が 民主化されると、一見評価基準を満たした高品質な事業構想が大量に創出されることになるでしょう。その中から最適な案を選択する「決断」は非常に高度な意思決定となるでしょう。

「設計する」「決断する」のステップに共通して問われるのは「意思」です。個人として、企業として「意思」を明確にしておかなければ、生成AIは単なるツールに留まってしまい、その真価を発揮できません。つまり、人間の明確な意思を起点として、AIの力を引き出していくことが重要なのです。

ここまでは、生成AIの登場により創造的な活動のあり方が変化していることを概観してきました。特に「創造する」の一部が機械化される一方で、「設計する」と「決断する」の重要性が増しているという点は、多くの方が感じられているのではないでしょうか。

しかし、実際の活用となると、まだ手探りの部分も大きいはずです。そこで次章では、私が新事業開発で実践している生成AIの活用事例を紹介しながら、創造的な活動における生成AIの効果的な活用方法を探っていきたいと思います。各フェーズでのAIの活用方法や、そこから見えてきたAIを活用する上で必要なスキルについて考察することで、生成AIを味方につけた創造的な活動のヒントが得られるはずです。皆さんと一緒に、生成AIを活用した創造的な活動の可能性を探求していければと思います。

新事業開発における生成AIの活用

創作的活動と生成AI

ここからは生成AIを活用した事業機会の定義の事例をステップごとに紹介していきます。どのステップにおいても、人間と生成AIが適切にコラボレーションすることで、従来のプロセスレベルの品質を担保したうえで、大幅に短期間で実行できるようになっています。長くなりそうなので、本記事では、1.設計する(Framing)に限定して見てきます。

1.設計する(Framing)

1−1 メガトレンドリサーチ

新事業開発の最初のステップである「設計する」フェーズでは、検討しているテーマや領域の概況を網羅的に把握することが重要です。特に、経験や知見が不足しているテーマに関しては、この初期リサーチが欠かせません。

私はこのリサーチを「メガトレンドリサーチ」と呼んでいますが、従来はデスクリサーチやエキスパートインタビューなどに多くの時間を費やしていました。しかし、生成AIを活用することで、業界名を指定するだけで、わずか数分で同等レベルのリサーチを生成できるようになりました。

もちろん、自分の意図通りの結果を得るためには、適切なドキュメント型プロンプトを設計するスキルが必要不可欠です。しかし、一度質の高いプロンプトを作成してしまえば、誰でも同じレベルのリサーチを生成できるようになります。

ただし、生成された内容をそのまま使うのではなく、対話型プロンプトを活用して深堀りするなどして、リサーチの質を向上させていくことが大切です。また、一気にすべての内容を生成させると「手抜き」された結果になりがちなので、項目ごとに分割しながら、詳細な分析を提供してもらうなどの工夫も必要でしょう。このようなちょっとしたコツを押さえることで、以下のような項目をわずか数分で生成することが可能になります。

1. エグゼクティブサマリー
2. 業界分析
 2.1. 主な市場セグメントと市場動向
 2.2. 今後の変化と課題
 2.3. 新技術とイノベーション
 2.4. 規制と政策の動向
 2.5. 業界の課題とリスク要因
 2.6. 市場規模とCAGRの予測
3. 競合環境分析
 3.1. 主要企業の戦略と取り組み
4. バリューチェーン分析
 4.1. 業界のバリューチェーンと付加価値
 4.2. 各ポジションの特性と新事業機会
5. エンジニアリングチェーン分析
 5.1. 業界のエンジニアリングチェーンと効率化・品質向上
 5.2. 新技術導入による改善と差別化
6. 顧客分析
 6.1. 主要な顧客セグメントとニーズ
7. 隣接領域・関連業界分析
 7.1. 隣接領域・関連業界での新事業機会
8. 事業機会の特定
 8.1. レバレッジの高いポジションとその理由
9. リスク分析と対応策
 9.1. 新事業開発に伴うリスクの特定
 9.2. リスクに対する対応策
10. 結論と提言

メガトレンドリサーチの項目例
メガトレンドリサーチ出力例/一部

このように網羅的にメガトレンドを把握することで、我々が深堀りすべき市場調査の範囲を明確にし、的確な判断を下すことができるようになります。

1−2 市場調査(競合調査)

市場調査の範囲を決定したら、次のステップとして市場の深堀りを行います。その中でも特に重要なのが競合調査です。従来の競合調査では、デスクリサーチによって情報を収集し分析するのが一般的でした。しかし、実際には言語の壁によって海外サービスの情報が収集できなかったり、収集できたとしても英語圏に偏ったりするなどの課題がありました。また、デザイナー主導のプロジェクトでは、情報は集まったもののデータ分析が不十分であるケースも見受けられました。

こうした従来の競合調査の問題点を解決する上で、生成AIの活用が大きな威力を発揮します。自然言語処理の力を借りることで、言語の壁を越えて、海外を含む幅広い地域の情報を収集できるようになります。さらに、生成AIを活用することで、収集した情報を効率的に分析・整理することが可能になります。大量のデータから重要なポイントを抽出し、競合各社の強みや弱み、戦略の違いなどを浮き彫りにすることができるのです。

ただし、やみくもに生成AIを使えばいいというわけではありません。生成AIを活用した結果、情報の洪水に溺れてしまって処理しきれなくなっている話もよく聞きます。重要なのは、AIから生成される大量の情報を人間が知識として活用できる状況を作ることです。私たちのチームでは、生成AIから提示された情報をそのまま分析するのではなく、必ず人間が「競合調査カード」を作成するプロセスを踏んでいます。この作業を通じて、人間がAIからの情報を深く理解し、リサーチの品質を担保した上で分析の工程に進むようにしているのです。

競合調査カード

そして、人間が作成した「競合調査カード」をCSVデータ化し、改めて生成AIにアップロードすることで、データサイエンス知識がなくても、自然言語処理により様々な切り口でのクラスタリングや、その特徴の定量的な分析などが可能となります。市場規模や成長率が高いクラスタはどんな特徴を有しているのか?収益モデルのパターンと事業成長の関係性は?など様々な分析を進めていきながら、理想的な事業機会を考えていくのです。

また、競合調査を効率的に進めていくためには、競合の定義が重要です。目的に合ったカテゴリを作成し、体系的に情報を整理することが求められます。具体的には、以下のようなカテゴリ分けが考えられます。

成功サービス/失敗サービス、国内/海外
- カテゴリ1(完全競合)
-カテゴリ2(代替競合)
-カテゴリ3(目的競合)

成長サービス(企業)
-Tier1
{#事業領域}に関連する高成長率・高資本効率の上場会社
-Tier2
{#事業領域}に関連する過去2年間に上場した高成長企業
-Tier3
{#事業領域}に関連するミドル・レイターステージのスタートアップ
-Tier4
{#事業領域}に関連するシード・アーリーステージのスタートアップ

競合調査のカテゴリ例

このようなカテゴリ分けを行うことで、競合他社の位置づけや特徴を明確にすることができます。また、自社の目指す方向性に照らして、どのカテゴリの競合に注目すべきかを判断することも可能になります。

例えば、自社が既存市場を新しい技術を活用したサービスで代替しようとしている場合、カテゴリ1(完全競合)のサービスを徹底的に分析することが重要でしょう。一方、新たな事業機会/ニーズを探っている場合は、Tier3やTier4のスタートアップの動向にも注目が必要です。

新事業開発以外でも同じですが、こうしたカテゴリ分けは、生成AIを活用する上でも大きな意味を持ちます。カテゴリごとに適切なプロンプトを設計することで、より的確な情報収集と分析が可能になるからです。

1−3評価基準を決定する

「設計する」における重要な内容のひとつに、事業機会や新事業アイデアを評価するための基準を決定することがあります。この評価基準は、後の「創造する」「決断する」フェーズで重要な役割を果たします。

生成AIがもたらした大きな環境変化のひとつは、アイデアを瞬時に評価できるようになったことだと思います。従来は、事業機会やアイデアを評価するためには、そのためのリサーチに時間を要していました。そのため、意思決定のタイミングに評価のためのリサーチをして改善策を検討する時間が足りないこともありました。しかし、現在は生成AIを活用することで、事前に設定した評価基準に基づいて即時にアイデアを評価し、その改善策を提示することが可能になりました。

事前に評価基準を設定しておくことで、「決断する」前の「創造する」フェーズで発散したアイデアを適切に収束させながら、リアルタイムに評価・改善していくことが可能になります。これにより、「決断する」フェーズでの意思決定の質を飛躍的に高めることができるはずです。これは、従来のプロセスとは圧倒的に異なるアプローチだと言えます。

評価基準を設定する際には、具体的な指標や基準値を設定しておくことが重要です。例えば、市場規模については「5年後に○○億円以上の市場が見込めること」、収益性については「投資回収に○年以内で、ROI○%以上が見込めること」といった具合です。

こうした評価基準は、生成AIを活用して設計することも可能です。例えば、「新事業アイデアの評価基準として考慮すべき点を挙げてください」といったプロンプトを与えることで、網羅的かつ客観的な評価項目を得ることができるでしょう。ただし、最終的な評価基準や優先順位の決定は人間が行う必要があります。自社の経営方針や強み、リスク許容度などを踏まえ、戦略的に意思決定を下すことが求められます。

事業機会の選定基準については、以下記事も参考になると思います。


 「設計する(Framing)」のまとめとして

「設計する」フェーズでは、生成AIを活用することで、情報収集と分析の効率を飛躍的に高めることができます。メガトレンドリサーチや競合調査において、適切なプロンプトを設計することで、短時間で網羅的かつ深い洞察を得られるようになりました。

ただし、生成AIはあくまでツールであり、その真価を引き出すためには人間の能力が不可欠です。AIから得た情報を鵜呑みにするのではなく、批判的に吟味し、自社の文脈に落とし込んでいく作業が重要になります。

また、評価基準の設計においても、生成AIを活用することで、網羅的かつ客観的な評価項目を得ることができます。ただし、最終的な意思決定は人間が下す必要があります。自社の戦略や強みを踏まえ、優先順位を判断することが求められるのです。

つまり、「設計する」フェーズにおいて重要なのは、生成AIの力を借りつつ、人間の戦略的思考を発揮することだと言えます。新事業も、そのほかの創造的活動も「設計する」の時点で負けている、というプロジェクトが多いと感じます。そのならないように、AIとの適切なコラボレーションを通じて、Framingの質を高めていくことが、プロジェクトの成功に直結するでしょう。

生成AIの登場により、「設計する」フェーズのあり方は大きく変わりつつあります。膨大な情報を短時間で整理し、意思決定に必要な示唆を得られるようになったからです。しかし、だからこそ、人間の役割がより重要になっているのも事実です。

AIの力を活用しながら、自社の強みや戦略を踏まえた上で、適切な問いを立てられるか。そして、AIからの示唆を批判的に吟味し、最終的な意思決定を下せるか。そうした能力が、これからの新事業開発に携わる人材に求められているのではないでしょうか。

「設計する」フェーズにおける生成AIの活用は、まだはじまったばかりです。今後、AIの性能はさらに向上していくでしょう。しかし、それと同時に、AIを使いこなす人間の能力も磨いていく必要があります。

生成AIの可能性を最大限に引き出しながら、人間ならではの創造性を発揮する。そんな新しいFramingのあり方を追求していくことが、イノベーティブな事業を生み出すカギとなるはずです。

次回があれば、「創造する(Creating)」「決断する(Deciding)」フェーズにおける生成AIの活用について探っていきたいと思います。引き続き、皆さんと一緒に考えていければと思います。

ではまた。

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