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けいちゃん。とんちゃん。てっちゃん。とか。

けいちゃん。

けいちゃんとは、岐阜県の南飛騨や奥美濃の郷土料理で、甘辛のタレに漬けた鶏肉を野菜と一緒に鉄板で焼いた料理である。下呂など南飛騨地区は醤油、郡上など奥美濃地区は味噌で味付けしたものが多い。ちなみに写真はうちでいつもやってる塩味。

農家だったらたいてい各家庭でニワトリを買っていた時代、卵を産まなくなったニワトリは「廃鶏(はいけい)」と呼ばれ、自宅で潰して(食肉にして)、正月に雑煮や煮物などの御馳走として食べていた。

かくいう我が家でもおぼろげに、毎年正月のどんど焼き(左義長)のたびに父が鶏を潰して焼いて食べていた記憶がある。

廃鶏。背景。

昭和30年代頃から、商業的な大規模養鶏が盛んになったことで、廃鶏を一般に食肉利用してもらおうと、安く販売していた背景があり、伊勢湾台風の復旧やダムなど公共工事に従事する労働者が増加し、手軽で安価な焼肉(ジンギスカン)スタイルの鶏肉料理が飲食店で提供され始めたことが、けいちゃんの誕生と言える。

ジンギスカン。

焼肉(ジンギスカン)スタイルと言うのは、羊の飼育が戦前より軍服増産のために岐阜県でも多く飼育されており、羊肉(マトン)の利用においてジンギスカン鍋がある程度普及していたという背景がある。老舗のけいちゃん屋さんではジンギスカン鍋で提供される場合が多いが、これは往時の名残りではないかと思う。

余談だが、ジンギスカン鍋は、旧満州(中国東北部)、朝鮮を日本が統治していた時代、満洲の烤羊肉(カオヤンロウ)をヒントに味付けを日本人好みにして、烤羊肉は串焼きだけど、ジンギスカンは日本で羊肉を食べるために開発した専用の半球型をした兜に鍔が付いたようなジンギスカン鍋は上で肉を焼き、下に落ちた脂を野菜に吸わせて食べると言うもの。

もとは七輪に乗せて使うもので、鉄の熱と炭火の熱の両方で焼けるようにスリットが入っていて、臭みのある羊肉の脂を適度に落としつつ、香ばしく調理が出来るものだった。だんだんと室内でガス火で調理するようになると、テーブルが脂まみれになってしまうので、スリットがなくなって行ったんだそう。

けいちゃんの普及。

けいちゃんが家庭で普及したことは、精肉店が主婦のリクエストで味付けの鶏肉を販売するようになり、お店だけでく家庭でもよく食べられるようになったことで、一般に根付いて行った側面もある。

ちなみに食肉用品種のブロイラーが台頭して鶏肉が安価に手に入りやすくなったため、現在売られている商品のほとんどは基本的に若鶏が使われているが、お店では廃鶏を区別して表記し売られている。その場合たいてい「ひね鶏」とか「ひねちゃん」と呼ばれる。若鶏よりも硬いが噛み応えがあり根強いファンも多い。

けいちゃんの名前の由来。

けいちゃんの「けい」は「鶏(けい=ニワトリ)」のことだろうが、「ちゃん」てのは何なんだ?愛称的にちゃん付けしてるのだろうか?イメージ的にはそんな、意味合いも含まれるとは思うが、大抵は以下の説からであろうか。

とんちゃん。

まず順当に思い浮かぶのが「とんちゃん」からだろう。「とん」は、「豚(とん=ブタ)」のことである。とは思うが、今回調べてみて、意外な説もありで、それは後述。

「とんちゃん」とは、東海地方においては、味噌で甘辛く味付けした豚の腸を、店では網で焼いて、家庭では野菜とともに鉄板で焼いて食べるスタイルが一般的である。これは亜炭鉱の労働者がスコップで肉を焼いて食べていたことがルーツとされている。って、ほんとかな?農具の鋤きで焼いたからすき焼き的な。

飲食店では同じ調理法で提供するために、豚は「とんちゃん」、鶏は「けいちゃん」と言った呼び名が普及して言ったのではないかと考えられる。

が、実は豚だから「とんちゃん」と思っていたのが、同じ岐阜県でも飛騨神岡では、牛の内臓も「とんちゃん」と呼ばれているのだ!ちょっと検索してみただけで、滋賀県大津市や、山口県下関市などでも、牛の内臓をとんちゃんと呼んでいる。とんちゃんの「とん」は「豚」ではなかったのか!

てっちゃん。

長い間、「とんちゃん」は豚、「てっちゃん」は牛。そんなの常識だぜって思い込んでいたことが、そうでもないらしい。てことで「てっちゃん」について少し考察。

牛の小腸に味付けして、家で気軽にホルモン料理を楽しめる草分け出来的な商品が「こてっちゃん」であるが、関西では牛の腸を「てっちゃん」と呼ぶらしい。岐阜県ではこの呼び名はあまり馴染みがないが「こてっちゃん」は近所のスーパーでも購入出来るので、牛の内臓のことは「てっちゃん」と呼ぶとインプットされている。

なんとなく「てっちゃん」と言う名前は「鉄板」で焼いてる食べるのに愛称のように「ちゃん」をつけたのだろうと想像したしていた。

韓国語で大腸だった。

真相はあっさりと、韓国語で大腸のことを「テチャン」と言うところから来ているらしい。「テ」が大で、「チャン」が腸の意味。なのでホントは牛でも豚でも大腸のことを指すのだった!ちなみに、日本の焼肉屋では大腸をシマチョウと呼ぶことが多い。高い店の牛ホル、上ホルって言うとだいたいこれで、脂が少なくて臭みも少ない。

小腸。

こてっちゃんは、商品化するにあたり、小腸を使ったために、小+てっちゃんで、こてっちゃんにしたそうである。これは日本で創作した言葉で、漢字にすると小大腸で、変な感じがする。

韓国語で小はコプで、小腸はコプチャンと言う。日本の焼肉屋だとマルチョウとかヒモとか言う。モツ鍋はだいたいこれ。安い脂たっぷりの牛ホルはこの部位。韓国料理のコプチャンは、日本で言うマルチョウ。つまり切り開かずに丸のままの腸で甘辛く煮焼きしたもの。ちなみに掃除するために裏返してある。韓国でも豚肉の方が安いので、大衆の店ではテジ(豚)コプチャンの方が多いらしい。

ややこしい話が、「テジ (豚)マッチャン」は豚の直腸で、「ソ(牛)マッチャン)」と言うと、牛の胃袋、ギアラのことを言うらしい。ネットで調べただけなので、話半分で。

腸の総称がとんちゃんなのか。

で、一説には韓国語でトンは糞を意味して、糞が入ってる腸で、すなわち、大腸、小腸、直腸の総称が韓国語でトンチャンと言うと、一部のサイトに書いてあったが、検索してもあまりよくわからない。実際韓国語にもくわしくないのでホントのことはわからない。トン(糞)スル(酒)は有名なので、あながち間違いではないかも。トンスルの説明はここではあえてしない。

なるほど、大腸、小腸、直腸の総称と言うことなら、とんちゃんと言う名前で牛のホルモンと言うのもうなづけるわけだ。日本では料理の名前になってしまっているが、もともとは部位の名前だったのだ。

余談。ホルモン、モツ。

ちなみに牛豚など畜産肉の内臓、臓物は、ホルモンとも言われるが、これは生理的物質のドイツ語で「ホルモン(Hormon)」にあやかり、栄養豊富な内臓を食べ、活力を与えるイメージで名づけられたとする説がある。関西弁の「放るもん」説が以前は有力とされていたが、戦前にはスッポンなどのスタミナ料理も「ホルモン料理」と呼ばれていたことが分かって来て、「放るもん」説は後付けと言うのが今の見方である。

ホルモンと同義で「モツ」とも言うが、これは日本語で、臓物(ぞうもつ)の「モツ」で、料理人や食肉業者間の隠語で言っていたものが、一般に広まったといわれている。

しめ。

だらだらと書いてしまったが、こういう食文化の語源や歴史の話が大好きなのでご容赦のほど。

で、結局「けいちゃん」のちゃんは、「とんちゃん」のちゃんから来ているとは思うが、実はほとんどのけいちゃんには、ちゃん(腸)は入ってない。お店によっては砂肝やレバーが入っている場合がある。うちでやるときは酒のあてになるから入れて作ることが多い。

この類の料理は、今では一般的になったが、昔は肉体労働者の食べ物であったし、自分が子供の頃も一般家庭では食べられていなかったと思う。臓物を食べることに少なからず偏見もあった時代だったし。我が家の場合は父が肉体労働者で、戦後すぐの頃は韓国・朝鮮の労働者と一緒に仕事をしていたこともあって、話には聞いていたが家で食べることはまずなかった。

いろんな食べ物を満喫できる今は良い時代だとしみじみ。

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