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深夜の貫通力 [ショートショート]

夜中にふと目が覚めた。理由は特になく、ただ時計を見ると午前2時を少し回っている。窓の外に目をやると、放射冷却が続く澄んだ空気の中で、月が静かに浮かんでいた。こういう夜は、家の中が一層冷え込むのだと気づかされる。

ベッドから抜け出し、コートを羽織って玄関のドアを開けた。小さな庭先には霜が薄く広がり、足元でかすかな音を立てる。冷気が頬に刺さるが、さほど不快ではない。むしろこれが必要だったのかもしれないと感じるほど、頭がすっきりする。夜風に晒されると、さっきまでの眠気が薄れていくのがわかる。

家の周りは深い静寂に包まれていた。近所の家々もすっかりと眠りについている。少し歩きたくなり、道路沿いに足を向ける。人影は見当たらないが、遠くの街灯がぽつりぽつりと並んでいる。放射冷却が強く、空気は驚くほど澄んでいた。息を吐くと、白く広がる水蒸気がすぐに消えていく。その一瞬が、気分転換に最適だと思った。

数分ほど歩くと、視界の端に線路が現れる。昼間は何度も渡るその線路も、夜中に見ると違う趣があった。線路が街外れまで貫くように伸びており、まるで自分の意識をそのまま導くかのように一直線に続いている。終点がどこなのか、考えようとしてふと、そんな必要もないことに気づいた。

冷えた空気が肺の奥まで貫く感覚に包まれ、ふいに一歩を止めた。静寂の中で、深呼吸をしてみる。息を吸うたび、眠りから遠ざかっていくのを感じた。

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