光る温泉のお土産 [ショートショート]
温泉街の土産物店に立ち寄ると、カラフルなLEDが瞬く棚が目に入った。土産物の棚は多様で、陶器の湯飲み、風情ある絵葉書、そして地元特産の温泉のもとが並ぶ。その一角に小さなLEDライト付きのストラップが、ピカピカと輝いていた。水滴のような形の透明なチャームの中に、温泉街の夜景が小さく収められている。ライトを点けると、内部がゆっくりと青から緑、赤へと移り変わる。
「これ、光るんですね」と試しにボタンを押してみると、柔らかな青い光が指先を照らした。店主が微笑みながら「温泉の蒸気をイメージしたんです」と教えてくれた。その説明を聞いて、確かに温泉の夜景が目の前に広がるような気がした。夜の温泉街を歩いたときのあのしっとりとした空気感を思い出す。温泉宿の入り口や街の角々に置かれた灯籠も、暗闇に溶け込みながら柔らかに光を放っていた。
そのストラップを手に取り、少し迷う。普段、こういった派手なものは持たないが、不思議とこの光るストラップには心が引かれた。温泉街での時間をほんの少しでも、日常に持ち帰りたかったのかもしれない。仕事中にふと視線を落とせば、あの温かい温泉の湯気が立ち込める夜道を思い出せそうだった。
ふと視線を上げると、店内には他の観光客が楽しそうに土産を物色している姿が映った。それを見て、ここでしか手に入らないものを記念に残したいと思った。ひとつ決心し、LEDストラップを手に取りレジへと向かう。店主が「お気に入りが見つかりましたか?」と声をかけてくれたので「はい、これをお願いします」と軽くうなずいた。バッグのストラップにつける場所を思い描きながら。
購入後、ストラップのボタンをもう一度押し、青い光が小さく光るのを眺めた。
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