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無限に燃える時間 [ショートショート]

目の前で火葬炉の扉が静かに閉まる。叔父の亡骸を収めた棺は、重たい音を立てて奥へと運ばれていった。煙突から上がる煙が見えないよう、窓はすべて遮光カーテンで覆われている。わたしは何も言わず、その場を離れた。

自宅に戻ると、リビングのソファに体を沈めた。柔らかなクッションが、妙に重たく感じる。普段ならテレビをつけたり、スマホをいじったりして時間をつぶすのだが、今日はどうにもその気になれない。目を閉じても、火葬場の光景がまぶたに焼き付いて離れないのだ。

叔父の家を訪れたのは二日前だった。久しぶりに会ったはずの叔父は、痩せ細った体でソファに横たわっていた。声をかけると、かすかな笑みを浮かべた。「永遠なんてものは、ただの幻想だよ」と叔父は言った。何の脈絡もなく、ぽつりと。

「無限ってね、たぶん苦しいだけなんだよ」そう続けた言葉が、妙に記憶に残っている。その時は、冗談だと思って聞き流していた。しかし、叔父がいなくなった今、その言葉が不思議と重たく胸に響いてくる。

ソファに深く沈み込みながら、わたしは思い返す。無限に続く時間が存在しないなら、いまこの瞬間だっていつか消えてしまう。ならば、何のために生きているのだろう?答えの出ない問いが、頭の中でぐるぐると回り続ける。

窓の外はどんよりと曇り、夜が近づいてきている。リビングの明かりをつける気にもなれず、わたしはただ、暗闇の中で時間をやり過ごすことにした。ソファの感触はなおさら重くなり、体を縛り付けるようだった。

明日になれば、この感覚も少しは薄れるだろうか。わたしはそう自分に言い聞かせながら、再び目を閉じた。無限のように感じられるこの時間が、どうか早く過ぎ去ることを祈りながら。

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