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焼きいもトルネード [ショートショート]

冬の午後、私は焼きいもを買うために商店街の端まで足を運んだ。焼きいものトラックはいつもの公園の入口に停まっている。アルミホイルに包まれた熱い焼きいもを受け取ると、ふと足が公園の噴水へ向かう。ここ数日、葉がその縁を周回する光景が妙に気になっていた。

「また今日も回ってるな…」噴水の縁を回る落ち葉たちを見つめ、私は独りごちた。水の流れが止まっているにもかかわらず、葉は緩やかな円運動を続けている。風のいたずらにしては整いすぎていて、自然現象にしては不自然だ。焼きいものホイルを少しずつ剥がしながら、その動きの規則性を観察する。

手にした焼きいもから白い湯気が上がる。表面は程よく焦げていて、中から甘い香りが立ち昇った。ひと口頬張ると、冬特有の冷たさが和らぎ、ほっとする温かさが全身に広がる。しばらく食べ進めながら葉の軌跡を眺めていると、私は奇妙なことに気づいた。

「葉の数、増えてる…?」そんなはずはない。足元に散らばる葉が風で舞い上がり、噴水の縁に吸い込まれるように加わっているように見えた。私は思わず立ち上がり、噴水の縁を歩き始める。葉の動きに合わせてゆっくりと。すると、まるで私の歩調に反応するかのように、葉の円運動が少しずつ速まっていく。

その感覚に飲み込まれた私は、次第に自分が動いているのか、葉が動いているのか、わからなくなった。焼きいもを持った手の感覚すら遠ざかる。頭の中にはただ、規則的な円の動きが残り、それが私の心拍や呼吸と同調し始めていることに気づいた。

「あの…大丈夫ですか?」背後から声をかけられて我に返る。見ると、焼きいも屋の女性が心配そうにこちらを見ている。「あ…すみません。ちょっと夢中になって…」私は苦笑し、焼きいもの残りを慌てて口に運んだ。少し冷え始めた芋の甘さが、私を現実へと引き戻す。

家に帰る途中、あの葉の動きが何だったのか、考えずにはいられなかった。私が動かしていたのか、それとも私が動かされていたのか。答えは出ないまま、焼きいもの余韻と共に、葉の円が心に刻み込まれていた。

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