地図にない境界 [ショートショート]
ある晩、私は委員会に呼び出された。暗い会議室に入ると、数名の重役たちが座っていて、その視線が私を捉えた。彼らは全員、古びた地図の上に手を置いていた。地図の中央には太い赤線が走っており、それはフォッサマグナと呼ばれる境界線だった。
「君に与えられた任務はわかっているね?」
委員長が静かに問うた。私は小さくうなずく。彼らが探し求める「賞金首」は、このフォッサマグナを越え、我々の地域に潜んでいるとのことだった。しかし、その正体は未だに不明で、ただ痕跡だけが散らばっている。
「この地図は特別だよ。普通の人には見えないルートが示されている」
副委員長が指差した場所は、地図上の小さな村。現実には廃村になっているはずだが、何かがそこに息づいているようだった。委員会はこの地図を頼りに、私をその場所へ送り込もうとしている。賞金首の痕跡を追うのは今回で三度目。毎回、彼らの情報は僅かだが正確で、私は期待と不安を抱きながら準備を始めた。
翌朝、指定された地点に着くと、そこは霧が立ちこめる山間の道だった。静寂の中、地図のルートに沿って歩き続ける。やがて、木々の合間から古い石碑が見えてきた。文字はかすれていたが、「境界」と読めた。ここがフォッサマグナに近い地点だろうか。背筋に寒気を感じながら、私はさらに奥へと進んだ。
突然、道の先に人影が現れた。ぼんやりと佇むその姿は、予想していた賞金首の特徴に一致する。しかし、彼はこちらを見ず、まるで何かを待っているかのようだった。私は足を止め、声をかけることもなく、息を殺して彼の動きを見守る。薄暗い森の中で、私と彼は無言のまま対峙していた。
しばらくの静寂の後、彼はふと何かを察したかのように顔を上げた。しかし、その瞬間、私の視界がぼやけ、次の瞬間には彼の姿は消えていた。あたかも何事もなかったかのように、霧が再び辺りを包んでいた。
私は深く息を吐き、立ち尽くす。委員会の依頼は完了したが、何かが終わった気がしない。地図を再度見直し、私は新たな境界を探すように歩き出した。
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