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まつげの重さ [ショートショート]

朝の光がカーテンの隙間から漏れ始め、枕元の目覚ましがけたたましく鳴る。寝起きに目をこするも、まぶたは重く、まつげの一本一本が顔にのしかかるようだ。昨晩も仕事を片付けてから布団に入ったのは午前2時過ぎで、今日も睡眠時間は4時間にも満たない。

リビングに入ると、同居する姉がすでに朝食を準備していた。私は声を出すのも億劫で、無言のままテーブルにつく。姉が私の顔を見て言った。「まつげが重そうだね、最近寝てるの?」そういわれても、無理に笑顔を作るだけだ。

職場に到着すると、上司の機嫌を伺いながらデスクに向かう。少しでも居心地をよくするために周囲の空気を読み、同僚との会話にも気を配る。忖度というやつだろうか。私は最近、それが仕事の半分ではないかと思っていた。どうしても相手の気持ちを優先させ、眠る時間すら削ってしまう。

昼休みになると、目を閉じて一息つく。自分のまつげがこんなに重いのはなぜだろう。目を閉じるたびに、その一本一本が体の重さそのもののように感じられる。疲れは溜まる一方で、休む暇もない。誰かが「大丈夫?」と声をかけると、私は無意識に「平気です」と返してしまう。心のどこかで、無理をしている自分に気づいているが、口から出る言葉はいつも反対だ。

夜、ようやく仕事が終わり、家に帰るとふと鏡を見る。まつげの先には小さな疲れの粒が張り付き、私を映している。目を閉じて、その重さを感じながら、眠りにつける時間が来るのをただ待っている。

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