農道に残る文字 [ショートショート]
冬枯れの農道を歩きながら、私は手にした紙を見つめていた。近所の古い倉庫で見つけた、ひどく汚れた一枚の紙だ。墨で書かれた文字が、ぼんやりと読める。「永久保存」と大きく記され、その下には達筆な文章が続いている。だが、肝心の内容は墨が滲んでよく分からない。
農道の両脇には雑草が枯れた跡が広がり、遠くの山が薄灰色の空に溶け込んでいる。この道を何度も歩いてきたが、こうして一人でじっくり見るのは初めてかもしれない。何か手がかりはないかと、文章の形を頭の中で推敲してみる。たとえば、「この道を守るため永久保存すべし」とでも書かれていたのだろうか。
ふと足元に目を向けると、ひび割れたアスファルトの上に何か刻まれているのに気づいた。しゃがみ込んで触れると、それは古い漢字だった。「開通」と「昭和」の文字が微かに残っている。どうやら、この道が完成した年号が刻まれているようだ。
誰が、どんな思いでこの道を通したのだろうか。私は、紙と地面の文字を重ね合わせるように考えた。この農道は、かつて多くの人の生活を支えたはずだ。そしてその意義を後世に伝えたかった誰かが、文章をしたためたのかもしれない。
しかし、紙の最後の一文は完全に判読不能だった。風が吹き、紙がひらりとめくれる。「永久保存」と書かれたその文字だけが、農道の静けさの中で奇妙に力強く残った。