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お昼のサンドイッチ [ショートショート]

午前の会議が思いのほか長引いていた。小さな会議室に十数人が詰め込み、議題に関する意見が飛び交う。資料の文字が目に焼き付くほど繰り返し説明されるが、結論には至らない。

時計を見ると、すでに正午を過ぎている。隣の席の同僚がそわそわと腕時計を確認し、咳払いをした。私はメモを取るふりをしながら、自分の鞄に忍ばせていたサンドイッチのことを考えた。

会議が終わる気配はない。司会を務める課長は議題を次々と切り替え、テンポよく話を進める。しかし、誰もそれに追いつけていない様子だった。頭の中に「お昼をどうするか」という単純な疑問がちらつく。腹の虫が小さく鳴いたが、誰にも聞こえなかったようだ。

「では、この点については午後一で再検討しましょう」課長の声が響いた。その言葉に会議室内が一瞬緩む。けれども、次の議題がすぐに始まった。誰も昼食のことを口にしない。

ふと、自分の集中力が切れ始めているのを感じた。ペンを握る手が力を失い、メモ用紙に文字が歪んでいく。早く終わってほしいと心の中で念じながら、顔には出さないようにした。

12時30分を過ぎた頃、やっと会議が終了した。部屋を出るとき、誰もが静かに深呼吸をしているように見えた。私は急いで鞄を開け、ぬるくなったサンドイッチを取り出す。近くのデスクに座り、一口かじった。それは思った以上に味気なかった。

午後の仕事が始まる頃、胃に収まったサンドイッチが妙に重く感じられる。昼食を超過してまで続けた会議の内容は、いったい何だったのか。それを思い出そうとしたが、思い出せなかった。

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