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自由の種 [ショートショート]

小さな袋を開けると、色とりどりの種が顔を覗かせた。形もさまざまだ。丸いもの、細長いもの、平たいもの。どれも同じ茶色に見えるが、よく見ると微妙に濃淡がある。

私はその中から一粒を指でつまみ、口に含んだ。噛むと、かすかに苦みが広がる。胡麻にも似た香ばしさが鼻を抜け、奥にほのかな甘みが残った。この味は、どこかで食べたことがある気がする。

「何の種だったっけ?」

そう呟きながら、袋の裏を確認する。しかし、そこに書かれているのは「自由の種」という不思議な名前だけで、具体的な品種名はない。

試しにもう一粒口に入れる。今度はピリッとした辛さが舌を刺激した。まるで唐辛子のような鋭さだが、じわじわと広がる甘みが後を引く。不思議に思いながら三粒目を噛むと、今度は柔らかな酸味が広がった。レモンのような爽やかさと、ほんのりとした渋みが共存している。

私は驚き、改めて袋の中を覗き込んだ。同じ形の種なのに、どうしてこんなにも味が違うのだろうか。ひとつの袋にいろいろな種類の種が混ざっているのだろうか?

何粒かを手のひらに乗せ、慎重に選んで口に運ぶ。今度はまろやかなナッツの風味が広がり、思わず目を閉じた。噛むごとに変化する味の正体を知りたくなり、私は次々に種を試した。塩気のあるもの、甘さが際立つもの、苦味の強いもの——どれも同じ見た目なのに、味だけが異なる。

「これ、本当に種なの?」

私は半ば疑いながら、最後の一粒を口に入れる。すると、懐かしい味が広がった。それは、幼い頃に祖母が作ってくれた甘い蒸しパンの味だった。口の中にふんわりとした温かさが広がり、思わず涙が込み上げる。

種の味が変わるのではなく、私の記憶が味を作り出しているのかもしれない。そう思うと、袋に書かれた「自由の種」という名前が、妙に納得できるものに思えた。

私は種の袋をそっと閉じ、胸の奥に広がる余韻をかみしめた。

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