第10回「大塚グループとクレイジーキャッツ」
大塚製薬、大塚食品、大塚化学などの大塚グループは、徳島の鳴門が発祥の地。グローバル企業になればなるほどアイデンティティを大事にしており、創立75周年を記念して1998年徳島県鳴門市の鳴門公園内に大塚国際美術館を設立しました。この美術館は、世界26ヵ国の西洋名画約1000点を陶板で原寸大に再現しており、奇想天外な発想力と日本の技術力の高さを実感できる唯一無二の美術館として徳島観光の大きな魅力になっています。
大塚製薬は、1959〜1960年にかけて大村崑さん主演の「頓馬(とんま)天狗」を一社提供番組としてよみうりテレビ制作、日本テレビ系列で放送し(土曜日19時〜19時半)、人気を博していましたが、その後番組として、フジテレビの「おとなの漫画」で人気の出始めていたクレイジーキャッツと当時人気の脱線トリオ(由利徹、南利明、ハ波むと志)が共演する番組を作る企画があったようです。この辺の事情は、娯楽映画研究家・音楽プロデューサーの佐藤利明さんが浦山珠夫名義で、映画秘宝別冊の「特撮秘宝Vol.7」で詳しく解説しています。
それによると、「月光仮面」などを制作していた宣弘社で当時企画部員だった阿久悠さんがクレイジー出演番組の企画を考えており、タイトルは「どら猫キャプテン」。この第一回(パイロットフィルム)が宣弘社の倉庫から発見され、舞台となる貨物船の名前は「オロナイン丸」、番組の主題歌に植木等さんの「オロナイン」という掛け声が入っています。残念ながら、この企画は松山容子さん主演の「琴姫七変化」にプレゼンで負け、幻のフィルムになりました。佐藤さんからこの話をお聞きしましたが、徳島で暮らしている私としては、とても感慨深いものがあります。
時は流れ、1968年2月12日、大塚食品は、世界初の市販用レトルトカレー「ボンカレー」を発売、そのパッケージに琴姫七変化に主演した松山容子さんを起用、テレビCMでは笑福亭仁鶴さんが子連れ狼の拝一刀の姿で「3分間待つのだぞ!」と呼びかけました。
ボンカレーの大ヒットを受け、1971年姉妹品として大塚食品からボンシチューが発売され、テレビCMに植木等さんが起用されました。
植木さんのセリフ
ボク スマート コレ 牛肉モリモリ
ボク クレイジー コレ スピーディー
ボク 食べるだけ コレ 温めるだけ
定価200円 味400円
この際カァちゃんと別れよう
ウソ! ウソ! ウソのないのはコレ!
大塚のボンシチュー!
このCMのフレーズから、1971年8月ハナ肇とクレイジーキャッツの23枚目のシングルが生まれました。作詞は青島幸男、上野玲児さん、作曲は萩原哲晶さん。タイトルは「この際カァちゃんと別れよう」
「貴方はこの女性を一生の伴侶として、とこしえに愛しますか」「愛します」
というセリフから始まるにもかかわらず、奥さんへの不平不満が1、2、3番と軽快なメロディーに乗せて歌われますが、
最後は
「今度この世に生まれた時も、一緒に暮らすと約束するさ。だから言うだけ言わせてほしい」「この際カァちゃんと」「この際カァちゃんと」「この際カァちゃんにあやまろう」
というオチになっています。
1971〜1972年に日本テレビ系列で、いろいろな夫婦像を描く「夫婦学校」という毎回単発のテレビドラマが放送され、吉永小百合さん、坂本九さん、森光子さん、松坂慶子さん、浅丘ルリ子さん、ハナ肇さん、コント55号、藤田まことさんなどが出演していますが、植木等さんも坂本スミ子さんとの共演で、「この際カァちゃんと別れよう」というタイトル回に主演しています。
上掲のレコードジャケットを見ると、B面の曲が「こんな女に俺がした」とありますが、この曲は作詞が阿久悠さん、作曲が鈴木邦彦さん。1971年に当時の有名作詞・作曲家の皆さんを起用して発売された植木等さんのソロアルバム第2弾「植木等/女の世界」に収録された曲です。
幻の「どら猫キャプテン」から11年を経て、植木さんと大塚グループ、阿久悠さんとのタッグが実現したことになります。
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