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【細胞談義043】うつ病を理解する2 [くすり💊]

こんにちは、ミネソタより、コーイチがお届けします。
※僕は博士号(医学)を持っていますが、医師でも薬剤師でもありませんので、あくまで個人の見解と言うことでお読みいただけると幸いです🙇‍♂️
相談は早めに専門家へ!本記事の最後に載せたリンクも参考にどうぞ
※一部誤字と日本語表現を訂正しました(2022年6月13日)。

薬は必要か

たくさんご質問いただくものとして「薬は必要なのか」があります。
結論をまず述べておきましょう。薬は治療に欠かせないものです。ただし、うつ病は薬だけで治るのではありません。うつ病の治療で最も大切なものは、休養です。心と体の両方を健康な状態にするために、適切な休養が必要です。

「うつは心の風邪」のような表現があることから誤解されていますが、ゆっくり体を休めて数日寝たら治るといったものではありません。しかも風邪と違って一過性にかかるものではなくて、症状に波もありますし再発すると言うことも起こります。ですので、うつ病の治療にはとても長い期間を想定しておかなければなりませんし、歴とした脳の病気なので薬を使った治療の必要もあります(脳だけでなく全身性の病気と捉える向きもあります)。

薬を服用するということに抵抗がある方もいらっしゃると思います。僕自身も、実は薬に対してあまり良い思い出がないので、やはり抵抗はあります。でも薬って大変な時に飲むものなので、良い思い出があまりないのは当然かもしれませんね…。

ここから、うつ病の治療薬に関して簡単にお伝えします。他の薬と同様に、うつ病にかかわる薬も正しく理解して使っていただくことが肝心です。
まず、うつ病かもと思ったら早めに専門家に相談していただくのが大事ですが、とりあえずどうぞと言って出された薬を飲んでみると言う形になると思います。そもそもうつの時ってあまり考えたり覚えたりできない状態だと思うので、事前に、あるいは身近な人が薬について知っておきたいですね。

どんな薬がある?

うつの治療薬にはいろいろな種類があります。それは、うつの原因が様々だからと言うこともあるのですが、そもそもうつ病のメカニズムがよくわかっていないから、と言うこともあります。ただし、長い歴史の中で試行錯誤されてきた薬は、一定の効果が認められています。
例えば後で詳しくお話ししますが、SSRIと呼ばれる種類の薬は、深刻なうつ病の患者の約半数(47%)で症状が改善したと実感されていて、さらにおよそ30%の人が症状の寛解(かんかい)、つまり症状がなくなったと報告されています(1)。

と言うわけで、きちんと効果が認められている薬で現在主に使用されているのは3種類です。
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・NaSSA(ナッサ; ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

※さらに古くから使われている三環系や四環系と呼ばれる抗うつ薬もあります。

これらの薬は脳の中に存在する神経細胞の情報伝達を調節することで抗うつ作用を発揮します。
神経細胞は脳の中に1000億個というものすごい数存在しています。それらが互いに接続することで回路を作っています。その繋ぎ目の部分をシナプスと言い、そこで神経伝達物質というバトンをやりとりすることによって次の細胞へと情報伝達しています。

神経伝達物質は神経を活性化させるものや落ち着かせるものなどいろいろな種類があります(ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンと言う言葉は耳にしたことがある方も多い思います)。

うつ病の症状はなぜ起こるかというと、この神経伝達物質の量が減少していて、うまく神経細胞の情報伝達が起こらないからではないか、と言う仮説が立てられていました。
健康な人の脳の中ではこの神経伝達物質が神経細胞の突起から放出されて、次の神経細胞が受け取って、と言う形で活動が広まっていくのですが、もちろん出しっぱなしだと拡散してしまって全部の細胞がわちゃわちゃしてしまいます。そこで、放出された物質は細胞の中に”再取り込み”されます。それによって脳内の濃度を調節されています。

と言うわけで、この再取り込みを抑制してやれば脳内での濃度を上げることができる、という期待から再取り込みの阻害剤を抗うつ薬として使用することになりました。SSRIはSelective Serotonin Reuptake Inhibitorの略で、再取り込み阻害によってセロトニンの濃度を上げてやろう、と言うものです。

これは前述の通り、かなり効果がありました。しかしながらこれでも効果が出ない人がやはり出てきます。原因がセロトニンと言うわけではないのかもしれないですね。
と言うわけでセロトニンに加えてノルアドレナリンの再取り込みもダブルで阻害するものが登場しました。SNRIのNはノルアドレナリンのことです。
ちなみに、NRIと言うノルアドレナリンにのみ作用するものもありますが、こちらはADHDの薬として知られていますね。

SSRIとSNRIの使い分けはとても難しいとされていますが、人によって原因が違う以上、効果の出方にも個人差があります。どちらがより効果的かは実際に試してしばらく使ってみないとわかりません。

その他に、症状によって抗不安薬や睡眠導入薬、気分の安定薬などが処方されます。


副作用について

前述した3種類は比較的新しいもので、選択的とか特異的という言葉が含まれていますね。
これはどう言うことかというと、狙った標的分子にだけ作用する、と言うような意味です。従来の薬だといろいろなところに作用してしまって、その分必要ないところにまで効果が及ぶので、副作用もひどくなる傾向がありました。現在は比較的効果が限定されていてより使いやすくなっていると言うことですね。

代表的な副作用としては吐き気や嘔吐などの消化器症状です。あとはめまいや眠気もあります。脳に作用しているわけなので、致し方ないところはあるんですけど、実はセロトニンの受容体は脳より腸に多く存在しています。うつ病の薬としては脳にだけ作用させたいわけですが、薬は全身を回るので、それで胃腸に不快感や異常が生じるんですね。
(なんで腸に、幸せホルモンとも呼ばれたりするセロトニンの受容体があるんだろう?って思うじゃないですか。それについてはまたどこかで…!)

またSNRIの場合はノルアドレナリンの濃度が上昇して血圧が上がったり動悸がしたりすることもあります。

これらは薬を飲み始めて最初の1−2週間によく現れるとされていますが、しばらく飲み続けていると体は慣れていきます。
そもそも抗うつ薬はその効果が出るのにとても時間がかかります。例えば頭痛薬や抗アレルギー薬のように数分単位で即効性があるものではなく、数週間数ヶ月を経て効果が出てくるものです。
また、急に薬を止める断薬も副作用を引き起こすので注意が必要です。


個人の経験談

僕も個人的に、気分がすぐれなかった時に心療内科に行って薬をもらったことがあります。しばらく薬の力を借りていました。見事に副作用に苦しんでいました。

イフェクサーというSNRIやドグマチール(スルピリド)という四環系抗うつ薬を飲んだことがありますが、結構気持ち悪くなっていました。それで胃腸の薬も一緒に処方されたりして、薬が薬を呼ぶような状況でした。こんなにたくさん薬飲んで大丈夫なんだろうかと思っていましたけど、大体2週間もすれば体が慣れていきました。
僕の場合は深刻なものではなかったということもあり、それから数ヶ月ほど通院して薬を減らしたりしながら回復していきました。

でも結局のところ、少し元気が出てきた頃に古い友人と会ったりいろんな風景を見に出かけたりしたことが良い休息となって治ったという気がしています。
結局、抗うつ薬は対症療法でしかないのです。いつかは薬を減らしたり少しづつ自分でコントロールできるようになった方がいいのです。その足がかりとして、薬の力を借りるという前提があります。
(僕の場合はシビアなうつ病というわけではなく、まさにいわゆる風邪のひき始めような軽度の状態だったからということもあります。)

もちろん自分の判断で薬をやめたり追加したりすることはやめた方がいいでしょう。
そもそも、特に精神科・心療内科領域の治療というのは医師と患者のコミュニケーションが大きなウェイトを占めていると言えます。薬が合う合わないという相談はもちろん、自身の状況の説明や会話といったカウンセリングを通じて、医師が患者を理解し、また患者もうつという病気をより理解するというステップが必要です。それによって治療方針も定まったり、患者自身の気持ちが安定したりします。
ですので、少し根気が必要になりますが、追い詰められた気持ちではなく、ゆっくり治していくという気持ちで、試行錯誤していただけたらと思います。


あとがき

抗うつ薬は神経伝達物質の再取り込みの阻害によってその濃度を高めて、抗うつ効果を発揮します。これは現在の抗うつ薬の作用メカニズムなわけですが、全員に効果があるわけではないですし、どうもこれだけでは説明がつかない原因がありそうです。また、高血圧の治療薬の中には神経伝達物質の濃度を下げてしまうものもありますが、この副作用で全員がうつ病のようになるかというとそういうわけではありません。つまり神経伝達物質の減少は原因のうちの一つでしか無いのです。
うつ病のメカニズム自体の研究も進むことが期待されます。


【うつかも?と思ったら下記リンクを参考に見てみてくださいね】
厚生労働省 「こころの病気を知る」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/index.html

こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/

こどもの相談窓口
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm


【参考文献】
1)Madhukar H. Trived et al., Evaluation of Outcomes With Citalopram for Depression Using Measurement-Based Care in STAR*D: Implications for Clinical Practice, Am. J. Psychiatry, 2006 163:1, 28-40, DOI: 10.1176/appi.ajp.163.1.28

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