鍼灸院概論(鍼灸専門院の教科書試案)

割引あり

【ご案内】

鍼灸専業で開業して20年以上経過しました。経絡治療ベースで平均15名/日を診ている状況です。年間のべ5000人くらいを過去10年くらい継続しており、予約枠上限の頭打ち状態で現在に至ります。

今後は一念発起し数年先に移転・業容拡大を目指しています。そのため内部資料の充実を図る一環として鍼灸院に対する考え方をまとめました。本来は外部に公開する内容ではないのですが、一般的な認識との差を知りフィードバックを得るために有償公開の決断を致しました。必要があれば内容の補足・改変などを考えがあります。フィードバックをお寄せいただける方は旧ツイッターでこちらまでご連絡ください(https://twitter.com/koichi2jp

なお、ここでの利益は鍼灸学術雑誌エレメンツの運営費にあてさせていただきます。鍼灸学術雑誌は旧ツイッターでアカウントをご用意してあります(https://twitter.com/am89elements


【ご注意】

このnoteは有料部分を含んでいます。こちらとしても貴重な情報でありますので、不要だと思う方はできる限り購入を控えてください。そのためこちらとしても判断いただけるだめ無料部分を提供しております。

もともと当鍼灸院で使用する教科書を作成しており、同志へ激励の意味をこめて公開するものです。ご自身の考えと意見が違う部分があると思いますが、その視点も大切なご自身の財産としてお考えください。



鍼灸院概論

東洋医学を表現する

「東洋医学とは何か?」という言葉の意義は広く簡単に語り尽くせることではありません。何が正しい東洋医学かということについても結論が出ないままわかったようなわからないような状態で過ぎてしまうのではないでしょうか。とかく治療的効果だけ取り上げて有効・無効はたまた再現性やエビデンスという言葉に振り回されがちですが、東洋医学のあり方は単なる西洋医学の補助的位置づけで終えてしまうには惜しい潜在的有用性があると考えます。

これらの議論が無駄だというのではなく、それぞれの想いがあることから議論が進展せず、東洋医学の有効性とはうらはらに社会に対して貢献できていない状況であると考えます。

そこで答えのない議論だから扱わないのではなく、できる限り合意できる内容を共有するために多くの意見をご紹介します。そこから得られた結論、方向性こそ鍼灸院の強みであり、この方針にて東洋医学とはこういうもの、鍼灸とはこういうものだと表現していくことが我々に課せられた使命だと考えています。

これが私たちの鍼灸

私たちが提供する鍼灸は、実費診療の手段でもなければ物理療法の刺激の一手段でもありません。もちろんリラクゼーションの代替手段でもありません。東洋思想の表現であり「よりよく生きるため」という人間学における五術のなかのひとつです。その五術に数える医学の重要なポジションに鍼灸医学があります。

現代医学のように病名治療ではありません。経絡の存在を肯定し、東洋医学的価値観によって一貫性のある診察診断に基づく施術が可能となる医学です。なかでも仁術を意識し、病気だけではなく病人を救うことを心がけるものです。人を深く知り、人を導けるよう自らも人間学の探究を怠らないように努めるべきです。古来より伝わる伝統を現代的に再現して世の中の役に立つように取り組むものです。

多くの失敗から学ぶ

東洋医学(ここでいう東洋医学は主に鍼灸のこと)の勉強会での経験で発展しない原因というのを考察したことがあります。東洋医学はその理解の難しさから曖昧な点が多いことを実感した人も多いでしょう。

勉強会という組織を運営するなかでは、確定の事実を上意下達で学習していくことは効率が良いのですが、東洋医学はそのような確定した事実ばかりではないので伝達には現実的に難しい要素があります。そもそも勉強会の方針と違うことが広まってしまえば組織としての一体性が乱れますので、どのように解釈するかという見解が求められます。いわゆる統一見解というものです。

私はここで大きな過ちがあったのではないかと察します。つまり、白黒はっきりしないものは研究余地として未知または不可知として棚上げすべき事柄があったのではないかと思うのです。やがて研究過程で解明できることもあるかもしれない点を時期尚早に白黒で断じてしまうとその結論に不服があっても従うか、組織を離れるしか道が残っていません。

ここでは譲れるもの、譲れないものを明確にし、それを未知または不可知とし、発展の芽となる可能性があるという良い意味での「棚上げ」が必要だと考えます。すべてが解明され、それをそのとおりに運用するのではなく、未知なる人体への仁術に立脚した医学医道を実践することを旨に鍼灸を提供するとともに組織としてともに成長できるよう反省に立った飛躍の機会を培っていくべきと考えます。

経絡治療以前

物事は現在の状況から当時を考えると何を当たり前のことを言っているのだかと不思議に思うものです。例えば兵法書の『孫氏兵法』では「戦争では地の利や時の勢いを最大限に活用するもの。それだけではなく心理戦でもある」と説いています。現代の経営指南書に通じる点もあり学ぶことが多いとされています。しかしながら、この前提を知らなければなりません。孫氏兵法が著される古代中国の春秋戦国時代以前は、戦争は時の運で決着したものであり、占いでの吉凶判断が開戦の根拠となったほどなのです。それを運次第で決まるものではないと喝破したのが孫子兵法だったのです。

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