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DX読書日記#8 『人材トランスフォーメーション』 柴田彰

はじめに

前回に引き続き、DX人材に関する本を読んでみました。
「人材トランスフォーメーション」(2019年)という本です。
著者はコーン・フェリーの組織・人事コンサルタントの柴田彰氏です。

本書の概要

著者は、いま日本企業が、これまでとは全く異なる「新種の人材」を追い求めているとし、その背景には強い危機感があるとしています。

その上で、日本企業が必要としている「新種の人材」の人材像を、コーン・フェリーで実施している、人材アセスメントにおけるコンピテンシー(行動・思考特性)診断や性格特性診断等の分析結果をもとに描き出しています。

本書では、「新種の人材」として、「次世代の経営者」「事業創造家」「デジタルトランスフォーメーションを実現する人材」を取り上げていますが、

「次世代の経営者」については、日本企業において、会社の将来を任せることができる経営者候補が社内に育っておらず、強い危機感もあり、いまの新種の経営人材を社外にも追い求める時勢の流れに、もはや逆行はないだろうとしています。

また、「デジタルトランスフォーメーションを実現する人材」については、いまの閉塞した状況をデジタル技術で打破したいという日本企業の焦りと期待があるとし、
「デジタルトランスフォーメーション」がバズワード化した幻想である可能性もあるとしつつも、
日本企業は必要とする人材イメージをしっかり形にする必要があると指摘しています。

最初に、同社が人材アセスメントで使用するコンピテンシーモデルを紹介しています。

ジェネリック・コンピテンシー一覧
リーダーシップ
強制力
育成力
チームワーク
達成指向性
顧客志向性
組織志向性
自信
イニシアティブ
フレキシビリティ
徹底確認力
誠実性
セルフコントロール
専門性
分析的思考力
概念的思考力
情報志向性
対人理解力
組織認識力
対人影響力
関係構築力
多様性の理解

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

実際に人材アセスメントを実施する際は、各社における優秀な人材イメージに合わせ、このコンピテンシー一覧から基準とするものを選択して使用するそうですが、
日本企業が管理職登用の人材アセスメントで基準とするコンピテンシーの種類に、変化が起きているとのことです。

下記で太字は変化のあったコンピテンシーです。

ジェネリック・コンピテンシー採用率上位10位 2005年-2015年

①仕事の原動力となるもの
・達成指向性
・組織志向性
②物事を思考するためのもの
・分析的思考力
・徹底確認力
③人と相対するためのもの
・対人影響力
・対人理解力
④働く上での気構えとすべきもの
・誠実性
・セルフコントロール
⑤組織運営に必要なもの
・リーダーシップ
・育成力

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

ジェネリック・コンピテンシー採用率上位10位 2016年-2018年

①仕事の原動力となるもの
・達成指向性
・顧客志向性
・自信

②物事を思考するためのもの
・概念的思考力
・徹底確認力
③人と相対するためのもの
・対人影響力
・対人理解力
④働く上での気構えとすべきもの
・誠実性
⑤組織運営に必要なもの
・リーダーシップ
・育成力

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

こうして見てくると、日本企業が求める人材像に、数だけでは推し量れない大きな変化が生じていることがわかる。
自分の会社のためではなくお客様のことをすべての起点に置いて、自分なりの強い理想や信念を持つ。
緻密で網羅的な分析思考能力よりも、新たな価値を生み出す創造的な思考力を有する。
いま、日本の企業が求めている人材をコンピテンシーという切り口から紐解いていくと、こんな人材像が浮かび上がってくるだろう。

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

とのことです。

次世代の経営者の人材像については、コーン・フェリーが実施している、後継者計画支援で、次の経営者要件として設定するCEOコンピテンシーが参考になるとしています。

CEOコンピテンシー一覧
ビジネス環境理解
概念的思考力
目標の最適化
大局観
情報志向性
組織構築力
顧客志向組織の構築
成果志向性
長期的視座
経営チーム構築力
権限移譲
育成力
説得力
組織風土の醸成
組織認識力
社内人脈の構築
社外人脈の構築
連携力
変革力
状況適応力
ビジョン伝達力
対人理解力
自信
経営者としての成熟性
多様性理解
異文化理解
倫理基準

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

以下は日本の大企業20社での分析結果です。
現役経営者が自らの後継者に求める重要資質となります。

採択率50%以上のCEOコンピテンシー

①広い見識を持って、自分なりの見解をつくる
・ビジネス環境理解
・社外人脈の構築
・情報志向性
②経営チームを構築する
・経営チーム構築力
・多様性理解
・連携力
③経営者としての覚悟を持つ
・長期的視座
・概念的思考力
・自信
・経営者としての成熟性
④組織をつくる
・ビジョン伝達力
・組織構築力
・育成力
・顧客志向組織の構築
⑤企業を永続させる
・成果志向性
・社会貢献

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

また、コーン・フェリーでは、CEOの後継候補者に対する人材アセスメントを世界各国で実施しており、日本企業と、欧米グローバル企業との比較も紹介しています。そこから日本企業の強みと弱みが見えてくるとしています。

日本企業の強み
・長期的視座
・育成力

日本企業の弱み
・ビジネス環境理解
・情報志向性
・経営チーム構築力
・多様性の促進
・組織構築力
・顧客志向組織の構築

『人材トランスフォーメーション』をもとに作成

将来を任せられる経営者の後継候補が、まだ十分には育っていないことも明らかになった。
ただ、幸いなことに、能力の不足は人材の質に起因するというよりは、経験の有無によって生じたものである。つまりは機会を与えて経験を積ませることで、能力伸長の可能性があるのだ。

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

とのことです。

DX人材については、「DX」自体がビッグワードであり、それが意味するところは決して一様ではなく、各社が真に求める人材像をきれいに一般化することは無理としています。

その上で、DX人材の共有する資質として以下を挙げています。

DX人材の共有する資質
①デジタル技術の最新のトレンドについて、十分な理解を有している
②会社が解くべき課題を発見し、デジタル技術を駆使したソリューションを組み立てる能力を持っている

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

ただ、これらの資質を兼ね備えた人材は一か所に固まって存在するわけではなく、業界や業種といった簡単な属性を頼りにDX人材を探すことはできず、候補者一人ひとりの職務経験をきちんと紐解く必要があるとしています。

その際、採用を効率化する手段として「出戻り」を紹介しています。
日本の大企業を一度退職し、ITベンチャー等に転職して数年経験を積んだのち、またDXの旗振り役として、元の会社に戻ってくるケースが増えており、成功確度も高いとのことです。

最後に、DX人材が期待通りの活躍を見せてくれるための条件を示しています。

DX人材が期待通りの活躍を見せてくれるための条件
①破壊権限の付与
②体制設計の自由度
③報酬水準の考慮
④リエゾン役の配置

『人材トランスフォーメーション』から抜粋

おわりに

DX人材に対するコンピテンシーモデルからのアプローチは珍しいかもしれないと思い、簡単ですが、紹介させていただきました。
本書では、著者の詳しい解説や、コンサルティングでの生々しい話も楽しめます。
興味のある方にはお勧めです!

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