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きめ細かな泡は感動の源泉

 スパークリングワイン、僕は好きでよく飲む。料理と一緒に飲むこともあれば、それだけを飲むこともある。ドライで軽くて喉ごしの良いものも、コクがあって味も香りもしっかりとしたものも、季節や気分に合わせて色々飲む。
 ワインの勉強を始めたきっかけは、僕がもともとお酒を好きだったこと、友人の妻のお父さんがソムリエだったこと、大きな理由はこの2つだ。「お酒好きの友人がいる」と、友人が僕のことを彼の義理の父親に紹介してくれた。その人が僕のワインの先生だ。「ただの酒飲み」でいてるよりは、勉強してみようと思い立った。今からもう7、8年前の話だ。
 当時、僕にはお酒に関する知識は全然なくて、特にワインは縁遠い存在だった。ウイスキーやブランデーといった蒸留酒を飲むことが多かった。その理由は、長い一枚板のバーカウンターに座って飲むことがかっこいいと思っていたからだ。あとは映画やドラマの影響もある。だから、お酒を好きというよりも、そんなお酒を飲んでいる自分が好きだったのかも知れない。とにかく、僕は何の知識もなくお酒を飲んでいた。
 ワインの勉強は、最初のうちは独特の用語やブドウの品種、ワイン産地の地名等々、覚えることは大変だったけど、知れば知るほど面白くなった。特に、身につけた知識と味覚や嗅覚、視覚をフルに使って、ワインに限らず飲み物の特徴を言語化するテイスティングは緊張感があって、でも的を射たフレーズをつかめた時には達成感もあった。
 そろそろ本題のスパークリングワインの話だけど、その中でもシャンパーニュ。これは僕にとって特別なスパークリングワインだ。まあ、シャンパーニュは誰にとっても特別な飲み物かも知れないけれど。
 ワインの先生との最後の勉強会の日。彼はテイスティンググラスにとあるシャンパーニュを注いだ。「じゃあ、ちょっとコメント考えて」色は薄くはない。黄金色がかっている。グラスの底から、きめ細かな泡が勢いよく、そして止めどなく立ち上がる。表面まで上がってきても気泡は消えてしまうことなく、グラスの壁面に沿ってたまる。グラスを鼻に近づけるとリンゴや桃、熟した果実、パンのような香りもする。口に含むと、うまみが押してくるように広がる…… 
 言葉にすれば色々と表現はできるかも知れないけど、単純に感動したんだ、その美味しさに。そして、こころがときめいたんだ、途切れることのない微細な泡に。グラスの底のほうから次々とわいてくるように見える泡たちは、いったいどこから来るのだろうか。そのとき以来、グラスにスパークリングワインが注がれるたびに、液体の中を立ちのぼってゆく泡の姿にも酔いしれている。何だか炭酸の話というよりも、シャンパーニュの話みたいだけど、シャンパーニュの泡は、知識も飲んだ経験もほとんどなかったころ純粋な感動の記憶と結びついて、僕にはいつまでも特別な存在なんだ。

#炭酸が好き

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