日本数学オリンピック本選 図形問題への基礎的なアプローチ法
はじめに
JMO本選では毎年図形問題が出題されています。
過去問の解説は以下のマガジンにまとめています。
JMO本選 図形問題基礎 ~本選受けるならこれは解けるべき~|光捷|note
予選問題のように具体的な角度や長さが与えられて
それを計算処理していくような問題はほとんど出ていません。
そのため、立式の仕方といった算数的なセンスよりも、
より一般的な図形の性質の処理能力が問われています。
図形問題については以下の書籍が大変勉強になります。
大変読みやすくてよくまとまっている名著です。
余裕がある方は時間をかけてじっくり取り組んでおいた方がよいでしょう。
数学オリンピック幾何への挑戦|日本評論社
とはいえ、JMO本選第1~3問レベルであれば、
この本の後半にあるような高度なテクニックを使わなくても十分戦えます。
角度を追う ~相似と円周角の定理~
相似も円周角も中学校で取り扱う基本的な知識ですが、
JMO本選第1問、第2問レベルであればこれらだけであっさり解けてしまうことがあります。
とはいえ、円に内接する四角形を自分で探す必要があるなど、
使いこなしには熟練が必要なところです。
例えば、三角形$${ABC}$$の各頂点から対辺に垂線を下ろし、
その足を$${D, E, F}$$とした次のような図形を考えます。
垂心を$${H}$$とします。
三角形$${ADC}$$と三角形$${BEC}$$、
三角形$${ADB}$$と三角形$${CFB}$$、
三角形$${CFA}$$と三角形$${BEA}$$は相似ですから、
$${\angle DAC = \angle EBC, \angle DAB = \angle FCB, \angle FCA = \angle EBA}$$
が導けます。
さらに$${\angle AFH = \angle AEH = 90^{\circ}}$$ですから、
四角形$${AFHE}$$は円に内接します。
そのため、$${\angle DAB = \angle FEB}$$が導けます。
そして$${\angle ADB = \angle AEB = 90^{\circ}}$$ですから、
四角形$${ADBE}$$も円に内接します。
$${\angle DAC = \angle EBC}$$はここから導くことも可能です。
このように、あらわには書かれていなくても、
相似関係や円に内接する四角形を探していくだけで
角度に関する等式が次々見つかることがあります。
特に、一点から複数の辺に垂線が引かれているときは、
円に内接する四角形を気にするところです。
相似関係はしばしば、長さの比の関係で表されることがあります。
例えば、三角形$${ADC}$$と三角形$${BEC}$$が相似であることは、
$${\frac{AC}{DC} = \frac{BC}{EC}}$$で表現されるかもしれません。
これは$${AC\cdot EC = BC\cdot DC}$$とも書けますから、
2辺の積が問題文に含まれている場合、
相似が関係していないかを探すことはよく役に立ちます。
方べきの定理 - Wikipedia
は有用で有名な定理ですが、円周角と相似の処理で自然と得られる定理ですから、
困ったときに特別な武器になるというわけではないと言えます。
チェバの定理・メネラウスの定理
チェバの定理 - Wikipedia
メネラウスの定理 - Wikipedia
も教科書レベルの基礎知識ですが、
長さの比の関係が複数でてくる問題では非常に有用であるケースがあります。
特に、これらの定理の「逆」を活用して
3直線が1点で交わることや3点が一直線上にあることを示す方法は
頭に入れておいた方がよいでしょう。
パスカルの定理
パスカルの定理 - Wikipedia
基本知識とは言えない定理だと思いますが、
2021年にパスカルの定理を知っていることが前提と思われる出題がありました。
2021年 日本数学オリンピック本選 第3問 解答例|光捷
証明は大変だけど主張はシンプルで分かりやすい定理ですので、
この機会に覚えておいた方が良いと思います。
同一法
簡単な例として以下の三平方の定理の逆を証明する問題を考えてみましょう。
三角形$${ABC}$$について、$${AB, BC, CA}$$の長さをそれぞれ$${c, a, b}$$とする。
$${a^2 + b^2 = c^2}$$ならば
$${\angle BCA = 90^{\circ}}$$である。
我々はこの逆で三平方の定理とその証明を知っています。つまり、
$${\angle BCA = 90^{\circ}}$$ならば$${a^2 + b^2 = c^2}$$
が成り立ちます。
$${AB, BC}$$の長さを$${a, b}$$に決めたとき、$${\angle ABC = 90^{\circ}}$$となるような三角形$${ABC}$$は必ず存在し、その形は1つしかありません。
そして$${a^2 + b^2 = c^2}$$となるように$${AB}$$の長さ$${c}$$が決まります。
逆に、3辺の長さがそれぞれ$${a, b, c}$$である三角形は三角形$${ABC}$$と必ず合同になりますから、$${\angle BCA = 90^{\circ}}$$を導くことができます。
このように、
(i) 問題とは逆に結論から条件を導ける
(ii) 結論を満たすものが存在する
(iii) 条件を満たすものが他にない
の3点を示すことができれば、条件から結論を導けたと言えます。
図形問題以外にも使えるテクニックです。
証明問題を解くときに、あえて結論の方を変形(言い換え)していった方が
条件側を変形していくよりも考えやすいケースはよくあります。
結論から条件を導くことができれば、あとは上記の(ii)(iii)が満たされているかを確認しましょう。
注:
大抵の問題は条件が複数あります。
条件A, B, C の3つから結論 Dを得る問題のとき、
例えばA, B, Dを仮定して Cを得られれば(i)を達成したことになります。
どの条件を仮定としてどれを結論とするかは腕の見せ所です。
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