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2019年 日本数学オリンピック本選 第3問 解答例

正の実数に対して定義され正の実数値をとる関数$${f}$$であって、任意の正の実数$${x,y}$$に対して
$${f\left(\frac{f(y)}{f(x)} + 1\right) = f\left(x+\frac{y}{x} +1 \right) - f(x)}$$
が成り立つようなものをすべて求めよ。

公益財団法人 数学オリンピック財団HP   第29回(2019年)JMO本選の問題

考え方:

$${x=y}$$としたり、その結果を利用するために$${x=2}$$とするのはすぐ思いつくと思います。
その結果、$${f(\alpha) = f(\beta)}$$の形になりますから、
このときに$${\alpha, \beta}$$がどういう関係になるかを調べることになります。
この問題は定義域も値域も正という縛りがありますから、
これの活用方法を考えましょう。
$${f\left(x+\frac{y}{x} +1 \right) - f(x) > 0}$$ は使えそうです。
この不等式の中では$${\frac{y}{x}}$$がやや扱いづらいですが、
$${y}$$はここにしか現れていないので、$${\frac{y}{x}}$$を改めて変数においてしまえばよいです。
$${f(\alpha) = f(\beta)}$$から得られる式をさらに変形して、
この不等式と矛盾することを示す発想に至れば解答にたどり着けます。

解答例:

正の実数$${u}$$を用いて$${y=ux}$$とおくと、条件式は

$$
f(x+u+1) = f(x) + f\left(\frac{f(ux)}{f(x)} + 1\right) >f(x)              \tag{1}
$$

となる。
さて、ある正の実数$${s, t}$$が$${s > t}$$かつ$${f(s) = f(t)}$$を満たすとする。
元の式で$${x=s}$$を代入した式と、$${x=t}$$を代入した式から

$$
\begin{align*}
f\left(s + \frac{y}{s} +1 \right) &= f\left(\frac{f(y)}{f(s)} + 1\right) + f(s)\\
&= f\left(\frac{f(y)}{f(t)} + 1\right) + f(t) \\
&= f\left(t + \frac{y}{t} +1 \right)       \tag{2}
\end{align*} 
$$

となる。
$${y_0=\frac{st(s-t+u+1)}{s-t}}$$とおく*と、$${s>t}$$よりこれは正である。
(2)式の左辺に$${y=y_0}$$を代入すると、

$$
\begin{align*}
f\left(s + \frac{y_0}{s} + 1\right) &= f\left(s+t + t\frac{u+1}{s-t} + 1\right)\\
&= f\left(s+t + \frac{tu+s}{s-t}\right)\\
&= f\left(s+t + s\frac{u+1}{s-t} - u\right)\\
&= f\left(t + \frac{y_0}{t} - u \right)  \tag{3}\\
\end{align*}
$$

となるが、(1)式で$${x=t+\frac{y_0}{t} - u}$$(これは正である)を代入すると

$$
f\left(t + \frac{y_0}{t} - u \right) < f\left(t + \frac{y_0}{t} +1\right)
$$

を得る。これと(3)式から

$$
f\left(s + \frac{y_0}{s} + 1\right) < f\left(t + \frac{y_0}{t} +1\right)
$$

を得るが、これは(2)式で$${y=y_0}$$としたものと矛盾する。
よって、$${s>t}$$かつ$${f(s)=f(t)}$$となるような正の実数$${s, t}$$は存在せず、
従って$${f(s) = f(t)}$$ならば$${s=t}$$である。($${f}$$は単射である)

さて、元の式に$${x=y}$$を代入して

$$
f(x) +f(2) = f(x+2)
$$

を得る。また、元の式に$${x=2}$$を代入して

$$
f\left(\frac{f(y)}{f(2)} + 1\right) = f\left(\frac{y}{2} +3 \right) - f(2) = f\left(\frac{y}{2} +1 \right)
$$

となる。つまり、

$$
\frac{f(y)}{f(2)} + 1 = \frac{y}{2} + 1
$$

であり、$${f(2)/2=k}$$とおくと$${f(x) = kx}$$を得る。
これは元の式を満たす。

コメント:

*解答例では天下り的に$${y_0=\frac{st(s-t+u+1)}{s-t}}$$と置きました。
当然ですが、突然思いつくものではありません。
$${f(x+u+1) > f(x)}$$
$${f\left(s + \frac{y}{s} +1 \right) = f\left(t + \frac{y}{t} +1 \right) }$$
が得られており、$${x, u, y}$$には任意の正の数を入れることができるので、
この2つが矛盾するように取れないかを探すことになります。

$${s + \frac{y}{s} +1 }$$と$${t + \frac{y}{t} +1 }$$はどちらも$${y}$$の一次式で、
その傾きは$${\frac{1}{s}<\frac{1}{t}}$$ですから、
$${y}$$を十分大きくとればその差を大きくでき、
$${f(x+u+1) > f(x)}$$から得られる
$${f\left(t + \frac{y}{t} +1 \right) > f(t + \frac{y}{t} - u)}$$と矛盾するようにできそうです。

例えば$${f\left(s + \frac{y}{s} +1 \right) = f(t + \frac{y}{t} - u)}$$となるような
$${y, u}$$がとれないかを考えます。
単純には、$${s + \frac{y}{s} +1 = t + \frac{y}{t} - u}$$となればよいので、
これを$${y}$$について解いたときに正の数になるので、これで十分です。

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