
数学オリンピック本選の思い出
もうすぐ数学オリンピックの本選が開催されるので、
ひょっとしたら受験者にとって何かの刺激になるかもと思い、
自分の思い出を語ります。
高校数学との関わり
高校2年生のとき、数学オリンピックに挑戦しました。
もう20年以上前のことです。
当時の私は地方公立高校の普通の高校生でした。
テレビに出てくるトーキョーはツワモノひしめく華やかな場所、
自分が住んでいる町は文明遅れた片田舎。
なんとなくそう思っていた、やや卑屈で視野の狭い高校生でした。
(地方の中心都市在住だったので実は結構な都会なのですが、
それに気づいたのは大学生になってからでした。)
私の高校には受験以外の数学について特別な知見があるわけではありません。
私は、勝手に教科書を進めるくらいには数学好きでしたが、
解ける問題が増えていく感覚や
ちょっとの工夫でするする解けていく感覚が楽しいのであって、
難問にじっくり取り組むようなことはしていませんでした。
月刊誌「大学への数学」を愛読していましたが、
挑戦するのは大学の過去問くらいで、
他の部分は読み物としてしか考えていませんでした。
予選を通過したものの・・・
そして挑んだ数学オリンピック。
予選問題も簡単ではありませんでしたが、
論理に穴があってもゴリ押せる一答式なのに助けられ、
なんとか本選に進むことができました。
本選を受けるからには何か準備が必要と思ったのですが、
どのように準備をしたらよいのかさっぱりわかりませんでした。
「大学への数学」は1年分取ってあったので、
前年の本選問題と解答を見ることはできましたが、
全く解ける気配はなく、解説を見ても
「ほえ~、なんでこんなことしてんの?」
というくらいの感じのマヌケぶり。
よく予選を通ったものです。
当時はyoutubeもなくブログがやっと流行りだしたような時代。
公式サイトにあるわずかなもの以外、
本選に関する情報はほとんどありませんでした。
自分の地域では本選出場者がいない年も少なくないことを知り、
とても気分が沈んだことを覚えています。
なんか予選通っちゃったけど、本選行って大丈夫なのか。
自分一人だけのために会場と試験監督を用意するのかもしれないのに、
何か成果を出せそうにはない。
逃げるのはもっと申し訳ない。
一体自分は何しに行くんだろう、と。
インターネットで調べてみると、
掲示板サイトに先人の書き込みがありました。
「会場に試験監督と自分の二人だけだった。
全く解けず、結局白紙で出してとても恥ずかしかった。」
似た状況の人は他にもいるのだという安心感と、
やはり自分もそうなるのではないかという不安と、
大変複雑な気持ちでした。
そして当日
試験会場は小さい会議室でした。
着くと、幸いにももう1人受験者がいることがわかりました。
イケオジ試験監督との気まずい無言の4時間を過ごさなくて済むことになり、
少し安心しました。
第1問、第2問は自分なりに検討らしきことくらいはでき、
それをざっと書いておけばちょっとくらい部分点をもらえるかなと
アテもなく解答用紙に書き連ねました。
隣で同じように解答用紙に何かを書いている
名前も知らない戦友(勝手に認定)に向けて、
「俺も負けじと答案を埋めているんだぞ」
と主張したい意地が一番大きかったかもしれません。
とはいえ、競技数学に対する圧倒的経験不足、装備の貧弱さ。
試験時間の後半は一歩も検討が前に進まなかったと記憶しています。
とりあえず白紙ではないのでイケオジの目を欺くことができたのだけはよかったと思いました。
あとで模範解答を見て、
自分の方針は箸にも棒にも掛かってなかったことを思い知らされました。
私の人生唯一の数学オリンピック本選は、
長篠の武田軍ばりの大敗という結果に終わったのです。
その後の数学オリンピックとの関わり
数学オリンピックに挑戦したということ、
予選を通過したということは誇れることでしたが、
思い知らされた本選上位者との格の違いを引きずることになります。
その後も本選問題は公式サイトにアップされていますが、
自分には全く手が届かないシロモノだという感覚が続いていました。
そんな本選問題に再度取り組みたくなったのは10年くらい前です。
特に関数方程式の問題に楽しさを感じ、
つまみ食い的にいくつかやってみることにしました。
研究開発の仕事に就いたこともあり、
すぐには解答が出ない問題を何時間も考えてみることにかなり頭が慣れ、
解けないこと自体楽しみながら挑戦することができるようになりました。
問題が解けたときのスッキリ感を求めることがいい趣味の1つになりました。
ほとんどの場合、とけるのは問題ではなく時間でしたが。
大学以降に得た知識のおかげもあり、
第1問、第2問レベルの整数問題であれば解けるようになっていることにきづきました。
それをきっかけにこのnoteで記事を公開するようになりましたが、
たくさん問題に取り組んでいくうちに
数学オリンピックの問題に独特の思考の仕方にも慣れ、
他の分野の問題も含め、以前よりもかなりスムーズに解けるようになってきました。
これが25年早くできていたらなあ、と思うことしばしばです。
数学オリンピックに対して思うこと
数学オリンピック(私が知っているのはJMO予選&本選)は、
数学の天才である若者たちが数学力を競っていますが、
数学の基礎である微分積分や線形代数すら必須知識ではないような設計になっています。
限られた出題範囲の中で高度に思考力を問う、
独特な作りになっていると言えます。
「競技数学」という独自の言葉の存在が表すように、
最先端の数学でなければ実用的な数学とも違う、独自の分野です。
競技数学ならではの頭の使い方と前提知識が必要になり、
しかもそれを中学・高校時代までに獲得して鍛える必要があります。
私が本選出場したころの数学オリンピックの本選上位者の所属を見ると、
ほとんどがいわゆる有名私立や首都圏の有名高校で、
地方公立高校の名前はほとんど出てきません。
優秀な生徒が有名校に集まるのはもちろんですが、
高校や地域による情報格差も要因として大きいと思います。
この20年で様々な関連書籍が出版され、
youtubeや各種記事で情報を得られるようになり、
以前よりは格差が小さくなっており、羨ましく思います。
まだまだ弱小高校には不利な部分があるかと思いますが、
昔の私のような卑屈で視野の狭い生徒にならずに、
精一杯時間と頭を使って競技数学を楽しみ、
更には競技数学だけでなく様々な学問を楽しんで欲しいと願っています。
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