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uekusakenta
【詩】組み上げられた街(作:小林亀朗)
寒波を知らない水鳥が南に向かって飛び立つ季節に大都会の真ん中で足を止めてどうするの?
息を潜める人間の数より多い監視カメラの熱い視線の意味をどうして忘れてしまったの?
哀しい音をたてて走り出す電車の中で、故郷を持たない若者たちは立ったり座ったりしている
そこに迷い込んだカタツムリは何を思えば良いの?
偽られた相場の値段が市民の味方を騙る若い社員の口から飛び出し、空洞化した相槌がそれに続いてようやく通販番組らしくなる
高い羽毛布団を買った人たちは何に幸せを感じるの?
今朝、15階建のマンションのエントランスで1羽の雀が息絶えた。自分の優秀さを誰よりも知っているサラリーマンが尖った革靴の先でそれを蹴飛ばした
毎日決まった時刻に響くシャッターの開く音閉まる音酔っぱらいが吐瀉する音横断を促す信号の音
下水ではゴキブリたちが宴に興じ、鼠が暗い目でご馳走を狙う
街をすり抜けていく細長い川のような布のようなこのムードは何なの?
その気だるさに身を任せ、お互いを体液で汚し合う男や女が一体どのくらいこの街にいるの?
吊り広告とフィッシング詐欺の画面が慰め合う時のように、彼らもしくは彼女らはずっと空っぽな気持ちなの?
甘い静けさを湛えた恋を抱きしめて1人の少女が学校へ向かう。連絡帳にメモした物のうち幾つかを忘れていることにまだ気づいていない
監視カメラは彼女だけでなく通りすがりの人々の背なや額に熱い視線を向け、3日経つと忘れることを繰り返す
寒いギャグの好きそうな親父が老後の暇つぶしに組み上げたようなこの街を愛する人にいつか出会う時は来るの?