![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149638648/rectangle_large_type_2_f8780153eeb54257e90728c718daa123.png?width=1200)
【詩】八月のある日(作:小林亀朗)
身体っていうのは小さな生け簀で
中には色んな生々しさが
勝手に棲みついている
俺は南向きの部屋の主だが
俺の身体の主は
粘り気を持て余す
生々しさだ
藻が生い茂る池に泳ぐ
鯉の体表に似ている
俺が歩くと中身が揺れる
リンパ液が臓器が生々しさが
あんたが通りがかると
髪の端っこから
銭湯で売られているシャンプーの匂いに混じって
流しに捨てられたカラザのような
生々しさが漏れ出していた
あんたが登った暗闇坂の
八月の夜明けのひぐらしのように
俺はあんたを愛しているよ
あんたの髪の端っこから
漏れ出していたその生々しさを
俺は愛しているよ
むかし川が流れていた谷の底を
電車は5分遅れで走っていった
その電車が落とした5分を偶然拾って
交番に届けたら
半年後に30秒くれた
電車はケチだった
もう30秒くれたら俺は
あんたとすれ違う間にあんたの
服の皺の数を数えられただろうにさ
のんべんだらりと陽が刺してきて
生肉から焼き肉になる俺たち
火が通りきらない
生焼けの俺たち