【短歌連作】写真を撮るやうに(作:依田口孤蓬)
月光にお腹も満ちて私たち爆ずるばかりに人影となる
川風の持つ厳かさ 言の葉の端と端とを絡めて編みぬ
心臓の響きが鈍くなつたとき泪を流す人になりたい
メビウスの明滅のたびしつかりと吸はれ吐かるる息のゆくさき
走つてゆき走つて走り歩くとき、河原の縁で「もう帰らう」と
明日には新幹線に奪はれて遠くへとゆくあなたのからだ
朝露の消えゆくまでは恐竜の化石のやうに眠つてほしい
一滴を求め私は丘の上のミヅキの幹へ花へ枝葉へ
もう二度とこの街へ来ぬあの人に「昨日の空は綺麗だつたよ」