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まったり書房店長の気まぐれ紹介:逢坂冬馬『同士少女よ敵を撃て』
いらっしゃいませ、まったり書房へ。
店長です。今日も気まぐれに本を紹介していきますね。
最近、藤井道人監督の映画『正体』を観たんですが、いやぁ、すごかった。冤罪で逃亡する主人公が見せる優しさと人間の葛藤が胸に刺さりっぱなし。主演の横浜流星くんの演技がまたすごい。ついでに、藤井監督の他の作品『新聞記者』や『デイ アンド ナイト』も観たくなっちゃいましたよ。
そんな「一本の重厚な映画を観たような体験」を本でも味わいたいなぁと思ったときに、この本に手が伸びたんです。
今日のご紹介は 逢坂冬馬『同士少女よ敵を撃て』 です。
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物語の概要
舞台は第二次世界大戦中のソビエト連邦。主人公は16歳の少女セラフィマ。
彼女はナチス・ドイツの侵攻で家族を失い、絶望の中で出会ったのが「女性狙撃兵」を育成する訓練所でした。戦場で狙撃手として生きるため、冷酷な師匠ラザレヴァと共に「人を殺す技術」を叩き込まれるのです。
少女が少女であることを奪われ、「敵を撃て」と命じられる中で、彼女は“何か”を失い、そして“何か”を得ていきます。
壮絶な訓練、過酷な前線、命のやり取りの中で彼女の心はどう変わっていくのか。そして、彼女が「敵」と見なしたものの正体は何だったのか……。
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まったり店長の感想
まず言わせてください。
「これはもはや一本の映画だ」
冒頭からラストまで、まるで映画のスクリーンを観ているような緊張感でした。
特に、ラザレヴァの「冷徹さの中に潜む優しさ」が凄まじいんです。師匠と弟子という関係の中で、愛情なんてものは感じさせない。でも、言葉の節々や行動の端々に“何か”があるんですよね。この不思議な距離感が、映像のように頭の中で展開されるんです。
それと、戦場の描写が生々しい。血や土、煙の臭いが漂ってくるような圧倒的な臨場感。人の命が「物語のための犠牲」ではなく、「一つ一つの人生が終わっている」重みを感じる描写が心にきます。
少女だったセラフィマが「敵を撃つ」という使命を負い、その心がどう変わっていくのか。家族の仇を討つために銃を握った彼女が、最終的に何を得たのか。
「敵」とは一体何なのか?
読むほどに、この問いが深く心に刺さります。
正直なところ、これを読んだあと、しばらく他の本が読めませんでした。頭の中をぐるぐる回るのは、セラフィマのあの視線。彼女の目が、いまだに私の心を見透かしているような気がしてなりません。
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こんな人におすすめ
重厚な物語を読みたい人
戦争の理不尽さや命の尊さに触れたい人
「誰が敵で、誰が味方なのか」を考えさせられたい人
店長のまとめ
自分の心のどこかに「敵」がいる気がして、考えさせられる読後感。正直に言えば、しばらく他の本に手を出す気にはなれませんでした。
戦場の緊張感、命を奪う重さ、命を奪うことで奪われるものの大きさ。
『同士少女よ敵を撃て』は、読むだけで一つの戦場に放り込まれたような衝撃を受ける作品です。
興味があれば、ぜひ一度、セラフィマの視線を感じ取ってください。
それでは、今日のまったり書房はこれにて閉店。
またのお越しをお待ちしております。