セッション定番曲その137:I'm a Fool to Want You
ジャズバラードのスタンダード曲。バラードにしては短めなので、セッション向きです。爽やかさとは対極のドロドロした曲。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Billie Holiday
悲恋を歌わせたらBillie Holidayに敵う歌声はありません。これはボロボロになって亡くなる前年の録音。現代の基準からするとウマヘタにも聴こえますが。思うように声も出ない、コントロールも効かない、それでも歌おうとする時に「本当のブルース」に近づけるのかもしれません。
あまり何回も聴かない方がいいかもしれません。大事な時の為に取っておきましょう。
ポイント2:Chet Baker
こういう情けない曲を歌わせたらChet Bakerは天下一品ですね。
か細い優しい声で囁くように歌っていますが、内容は「相手に届かない気持ち」。これもかなり晩年の録音です。
どうもこれは、こういうヘタウマな歌声が似合う曲なのかもしれません。
ポイント3:I'm a fool to want you
I'm a fool to want you
I'm a fool to want you
To want a love that can't be true
A love that's there for others too
不誠実な相手に恋する自分は愚かだと分かっているけど、その気持ちをどうしても止められない。そんな心の動きを切々と歌っています。相手を責めるよりも、自分自身の愚かさと固い決意を呪っている。
Time and time again I said I'd leave you
Time and time again I went away
But then would come the time when I would need you
And once again these words I'll have to say
「Time and time again」は「何度も何度も繰り返して」。
『もう諦めなさい』と自分自身に何度も言い聞かせたのに、気が付くとまた貴方を求めてしまう。そしてまた同じことを自分に言い聞かせる・・・
Take me back, I love you
Pity me, I need you
I know it's wrong, it must be wrong
But right or wrong I can't get along
Without you
「Pity me」で「私のことを憐れんでください」と懇願しています。
この恋は良くないのは充分わかっているけれど、良い悪いではなくて「貴方無しでは生きていけない」恋なのだ、と。
結局なぜ上手くいかないと分かっているのか、歌詞の中には書かれていませんが、それが分かっているからこそ燃えてしまう人っていますよね。全ての不幸の始まり。
ポイント4:Helen Merrillの場合
Helen Merrillは例のハスキーボイスで情感たっぷりに歌っていて、強弱のメリハリがお手本のようにハッキリしています。もともと「セリフ」みたいな曲なので、こういう表現もいいですね。
ポイント5:Frank Sinatraの場合(個人的事情)
この曲はもともとFrank Sinatraも作詞者のひとりにクレジットされていて、1951年に発表されました。当時すでに結婚していたのですが、新しい恋人(Ava Gardner)と一緒になりたくて離婚を申し入れていたのに、奥さんがカトリック教徒で離婚を簡単に認めてくれず、悶々としていた時期だったようです。
どこまでその状況を歌詞に反映したのか分かりませんが、思い入れを込めて歌える心境だったのは間違いないですね。
ポイント6:Dexter Gordon
テーマ(曲のメロディ)を「アドリブの材料」くらいに考えている人もいますが、バラードはちゃんとテーマを吹く(弾く)のが大事ですね。
ポイント7:Bob Dylan
およそジャズ向きの声ではないBob Dylanも歌っています、2021年録音。
こういうシンプルな詩を歌う時の彼の心境はどんなものなのか聞いてみたいですね。前述のように「ヘタウマな歌声が似合う曲」なのかも。
ポイント8:その他の歌手
Carly Simon、1997年録音
Linda Ronstadt、1984年録音
「恋多き女」だった彼女がNelson Riddle Orchestraをバックに切々と歌ったもの。ジャズ曲をポップスとして歌うお手本。
Tony Bennett、1960年録音
「隠れヘタウマ」のTony Bennett、声の良さと表現力の人ですね。
ポイント9:インスト
トランペットの名演が多いですね。
Lee Morgan、1960年録音
ファンキーな演奏のイメージが強いLee Morganですが、バラードも上手い。
Roy Hargrove、2000年録音
Donald Byrd、1961年
Kenny Burrell Trio、1959年録音
少しラテン味を感じるリズムアレンジがいいですね。
Duke Pearson、1960年録音
◼️歌詞
I'm a fool to want you
I'm a fool to want you
To want a love that can't be true
A love that's there for others too
I'm a fool to hold you
Such a fool to hold you
To seek a kiss not mine alone
To share a kiss the Devil has known
Time and time again I said I'd leave you
Time and time again I went away
But then would come the time when I would need you
And once again these words I'll have to say
Take me back, I love you
Pity me, I need you
I know it's wrong, it must be wrong
But right or wrong I can't get along
Without you
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