セッション定番曲その46:One Note Samba (Samba de Uma Nota Só)
ボサノバ/ジャズの歌モノの定番曲として人気があります。「ずっと同じ音のメロディ」ということで安易に飛びつくと痛い目に遭う、なかなか難しい曲ですが・・・
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:ワンノート
低音楽器(ベース)などが数小節に渡って同じ音を維持する「ペダル(ポイント)」というテクニックがありますが、この曲は逆に上物(うわもの)のメロディがずっと同じ音階、というとても変わった構成。
バックのコードは変化していくので、メロディに含まれる「同じ音」がコードに対しての機能/役割をどんどん変えていくというテクニックです。自分はずっと同じ歩数で歩いているのに、すれ違う人や追い抜いていく人によって周りの景色が変わるみたいな・・・かえって分かりにくい例えでした。リズムパターンそのものに味わいのあるボサノバならではなのかもしれないですね。
ポイント2:ワンノートで歌う
通常の場合、メロディを歌うというのは音階が変わるのが当たり前で、その中で音の強さや長さに抑揚を付けて歌詞を表現していくことに力を注ぐ訳ですが、その音階が変わらない、と。ラップだって多少の音階の上げ下げがありますよね。
いざこの曲を歌おうとすると戸惑ってしまい、つい勝手にメロディを付けたくなってしまうものですが、そこは我慢我慢。逆にとても難しい歌ですよね。音の強さや長さに注意してニュアンス出すことが求められます。
「ボサノバは語るように、呟くように歌う」という基本に立ち返って、肩の力を抜いて、音階ではなく音の強さや長さに工夫して、歌詞を届けることを考えてみましょう。
ポイント3:サンバとボサノバ
「タイトルにサンバって入っているのに、実際に演奏する時はボサノバでやることが多いよね」と思う人も多いかもしれません。結構そういうことって多いですよね。セッションで曲を始める前にその辺のところをハッキリしておかないと、混乱が起きることもあります。高速サンバで演奏される「ワンノート・サンバ」も聴いてみたいですが・・・。
詳しく語る立場ではないですが、大雑把に言うと「どちらもブラジルの音楽で、サンバからの派生でテンポを落としたボサノバが(クラシックやジャズの和声の影響を受けて)生まれた」という経緯で、親子みたいな感じですかね。サンバ(サンバ・バトゥカーダ)というとリオのカーニバルのようなノリノリのイメージで、基本的には打楽器の音楽です。
逆にジャズのミュージシャンが作った曲には露骨に「ボサノバ」とタイトルに付いている場合がありますね。一時期とても流行ったジャンルなので、そうした方が売り易かったのかもしれません。
ポイント4:何について歌っているのか
ポルトガル語は読めないので、その和訳を見てみると、英詩は割と原曲の直訳っぽいもののようです。
This is just a little samba built upon a single note
Other notes are bound to follow, But the root is still that note
基本的には「この曲はこんな作り(ずっと同じ音を奏でる)だよ」と曲自体の説明が歌詞になっています。
ただよく聴いていくと、「One note」というのは「(大好きな)君」のことだと気付きます。その「君」の周りを「僕」は絶妙な距離を保ちながら回っています。バックで流れるコード(和音)が「僕」なのかもしれませんね。前述のように「君=One note」がずっと不変でもコードが変わるとその音の役割/機能が変わっていくという作りなので。
There's so many people who can talk and talk and talk
And just say nothing or nearly nothing
この箇所はメロディが付いています。「饒舌な人は沢山いるけど、実際には中身のあることを言っていない」と、One noteとの対照でメロディアスなパートを半ば否定するような歌詞。
I have used up all the scale I know and at the end
I’ve come to nothing or nearly nothing
全行から全音下がったメロディで「知っている限りの音階を試してみたけど、君=One noteには全然近づけないよ」と嘆いています。賢いつもりで色々と工夫してみたけど、シンプルな君の気持に合う音階は見つけられなかったんですね。
So I come back to my first note
As I must come back to you
だから曲の最初の音、One noteに戻っていくよ、と。
それは君のもとに戻っていくことでもあるし。
Anyone who wants the whole show
Re, Mi, Fa, So, La, Ti, Do
我慢できない人達は「レミファソラシド」と音階を歌うけど・・・
ポイント5:様々な演奏、歌
分析をしている分かり易いブログがあったので貼っておきます。
One Note Sambaのコード進行分析
それぞれキーも構成も違っていて面白いですね。
(母音の多い)ポルトガル語の響きがやはり相応しいと思えるジョアン・ジルベルトの歌
こっちは英語でジョアン・ジルベルトがまさに呟くように歌うバージョン
これは「サンバ」っぽいかな、イーディ・ゴーメの歌う賑やかなもの
まさかの松田聖子、歯切れの良さはさすが
One Note Samba
ちょっと鼻にかかった歌声が素敵ですね
ラテンもの大好きなディジー・ガレスピーによるインスト
One Note Samba
タニア・マリア(サンバでもボサノバもない)
One Note Samba
まさかのラテンファンク
人気曲なので、本当に色々な人が演奏し歌っていますが、いわゆる「歌ウマ」さんが声を張り上げて歌うのはちょっと違うかなという感じですね。「抑制」がポイントかな。
ポイント6:発音のポイント
淡々と歌うので、発音で引っ掛かる箇所はあまりないのですが
Now this new one is the consequence, Of the one we’ve just been through
「consequence」は「(何かの原因があって)起こる必然の(あまり良くない)結果」「(言動の結果としての)報い」みたいな意味です。「con+sequence」で、「con」は「~と一緒に」という接頭語、「sequence」は「連続して起こるもの」「(映画などの)場面」ですね。
sequence単体だと「síːkwəns」と「イー」が伸びるんですが「consequence」だと「kɑ'nsəkwèns」と発音が変化するので要注意。
There's so many people who can talk and talk and talk
発音というよりも「talk and talk and talk」の部分を歯切れ良く歌うのを心掛けましょう。冒頭の「There's」の部分はハッキリ歌うとリズムにうまくのれない場合には飲み込んでしまってもよいと思います。
ポイント7:ワンノートを使った曲の例
ポップスやロックでも意図的にワンノートを使った曲はあります。やはり、上手くニュアンスを付けるのが大事ですね。
Songs with One Note Melodies
(「One Note Samba」のコードの機能についても少し触れられています)
ジャズスタンダード曲の「Come Rain Or Come Shine」もワンノートになる箇所がありますね。やはりニュアンスを出して歌うのは難しい。
■歌詞
This is just a little samba built upon a single note
Other notes are bound to follow
But the root is still that note
↑ Now this new one is the consequence
Of the one we’ve just been through
As I’m bound to be the unavoidable consequence of you
There's so many people who can talk and talk and talk
And just say nothing or nearly nothing
I have used up all the scale I know and at the end
I’ve come to nothing or nearly nothing
So I come back to my first note
As I must come back to you
I will pour into the one note all the love I feel for you
↑ Anyone who wants the whole show
Re, Mi, Fa, So, La, Ti, Do
↑ He will find himself with no show
Better play the note you know
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Samba De Uma Nota Só
Eis aqui este sambinha
Feito numa nota só
Outras notas vão entrar
Mas a base é uma só
Essa outra é consequência
Do que acabo de dizer
Como sou a consequência inevitável de você
Quanta gente existe por aí
Que fala fala e não diz nada
Ou quase nada
Já me utilizei de toda escala
E no final não sobrou nada
Não deu em nada
E voltei pra minha nota
Como eu volto pra você
Vou dizer em uma uma nota como eu gosto de você
E quem quer todas as notas
Ré-Mi-Fá-Só-Lá-Si-Dó
Fica sempre sem nenhuma
Fique numa nota só
Eis aqui esse sambinha
Feito numa nota só
Outras notas vão entrar
Mas a base é uma só