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セッション定番曲その58:(I’m Your) Hoochie Coochie Man(俺のはデカチン) by Muddy Waters

ブルースセッションでの人気ド定番曲。演奏者全員が大きなノリに合わせて気持ちよくなっていく曲です。今日も世界中のどこかのブルースバーで演奏されているはずです。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:俺のはデカチン

ブルースのパターンのひとつの「自分語り曲」です。
「俺が生まれる前に占い師が予言した。この子は将来モテモテでオンナ達をキャーキャー言わせるよ、と」

「Hoochie Coochie Man」はうまく訳せない俗語ですが、ぶっちゃけて言うと「俺のアレは目立ってしょうがない」「オンナをヒーヒーいわせるエロ男」みたいな感じかと。それをサビで何回も何回も繰り返して叫ぶという、とんでもない曲。

ポイント2:泥水男

史上最もかっこいい芸名のひとつ、Muddy Waters
1913年ミシシッピ州出身で、子供の頃に泥だらけで遊んでいたことからつけられた愛称のようです。それをそのままステージネームにしたのが凄いですね。1940年代にシカゴに移住して1950年代からチェス・レコードに録音を始めています。バンド形式での演奏でいわゆる「シカゴ・ブルース」のスタイルを確立した人のひとり。野太い声、豪快なスライドギター。

Hoochie Coochie Manは1954年のヒット曲。この頃ははまだ米国の白人層がブルース(黒人音楽)を熱心に聴くような時代ではなく、ヒットしたといってもあくまでも限られた黒人サークルの中での出来事。ブルースが表舞台に出ていくのは、ロックンロール化と英国からの逆輸入を待つことになります。

もし隠れて聴いている白人の若者がいたら、聴いてぶっ飛んだでしょうね。何歌っているのか分からないけど、魔力があると。

逆に偏見を持っていなかった英国の若者は手に入れた輸入盤を聴いて「こりゃヤバい音楽だ」と夢中に。まさか米国では全然流行っていないとは想像出来なかったらしい。早い時期からMuddy Watersも英国/欧州にツアーに出掛けていたので、生演奏を聴いたファンもいたはず。ジャズも同様の時代がありましたが、比較的人種差別意識が薄い欧州で心地良い体験をした黒人ミュージシャン達は多かったでしょうね。

ポイント3:ロック的

この曲は形式的には変形のブルース形式ですが、強調されるリフといい、歌詞といい、非常に(後の)ロック的な要素を含んでいます。それが定番曲になった要因でもあり、ロック時代にも沢山のミュージシャン達によってカバーされた魅力だと思います。

繰り返されるお決まりのリフが「永遠の前進」を感じさせる、解決しない感じを与えています。全員でリフを奏でて、一瞬止まって、また繰り返す。その緊張感が非常にロック的だと思います。この音が鳴っていない瞬間のグルーヴを感じられるかどうか。

ポイント4:Black cat bone, Mojo, Johnny The Concheroo

真面目に英語を勉強していても一生出会わない言葉が沢山出てきますね。

「Black cat bone」は黒魔術で用いられるおまじないの道具のひとつで、自分の姿を隠したり、不死身になったり、相手を惑わせて恋に落としたり、と効果があるとされます。
Black cat bone - Wikipedia

「Mojo」も黒魔術で用いられる道具で、様々なガラクタ(貝殻、石、ガラスの欠片、枝など)を詰めた袋です。同じように様々な効果があると信じられていましたいます。
Mojo (African-American culture) - Wikipedia

「Johnny The Concheroo」は米国黒人の伝説の人にちなんだ植物の、根っこを指していて、これも黒魔術で用いられる道具で、これがMojoの袋の中に入っている訳ですね。
John the Conqueror - Wikipedia

つまり、元々デカチンな俺が、更にこういう魔法の道具も持っていて、お前たちオンナどもを誑かすぞ、と。

黒魔術(ヴードゥー教)の呪いの力って本当に凄いみたいで、バカにしていると酷い目に遭うと現代でも本気で恐れている人も多いです。それを題材にした映画も沢山ありますね。

ポイント5:7という数字

数字の持つ意味は文化や歴史などの背景によって変わりますが、米国(西欧圏)では「7」は「安心、安全、完全性、安定性」をあらわす数というイメージがあるようです。「ラッキー7」という言葉もありますね。
Number 7 - Meaning - Symbolism - Fun Facts - Religion - Mythology

そんな月の日の時間帯に、7人の医者が「こいつは幸運の持ち主だ」と保証して生まれてきた俺。

なんか、やたらと迷信やら幸運やらに拘っていますね。

ポイント6:Willie Dixon

作者はWillie Dixon。ベーシストですが、印象に残る歌詞やメロディを書ける人でした。この時代で印象に残っているバンド形式の曲の大半はこの人の作品。ブルース好きなら足を向けて寝れません。

「I Just Want to Make Love to You」「I'm Ready」「Spoonful」「Little Red Rooster」「I Ain't Superstitious」「My Babe」「Bring It On Home」「I Can't Quit You Baby」などなど。ロックミュージシャン達にカバーされた曲も多いです。印税はちゃんと支払われたのかな?

今でもブルース(ロック)セッションの定番曲になっているものが多いですね。1950-60年代に「現代」的なブルース曲がちゃんと書かれていたのは嬉しいですね。ロックに近い感覚あるいはロック化し易い曲が多い印象です。それ以前の古い(カントリー)ブルースの曲だけだけだったら、現代までブルースは生き残っていないかも。

ポイント7:発音のポイント、発声のポイント

なにせ強烈な声の持ち主が原曲を歌っているので、参考にするのはなかなか難しいのですが・・・

He's gonna be a son of a gun
「son of a gun」はひとかたまりで「とんでもない野郎」という意味です。区切らずにひとかたまりで発音します。
こういう末尾に「n」音が来る時のMuddy Watersの発声は特徴的で「ンヌッ」みたいに粘り気のある感じです。

He gonna make pretty women's
「woman」の複数形が「women(wɪ́mɪn)」ですが、それに「s」が付くというのは何なのでしょうか?こういう文法的な誤用は黒人英語にはよくあって、そのひとつだろうと思われます。複数形にさらに複数形をあらわす「s」が付いてしまう、と。聞いたことない単語なので、発音に要注意。

I'm the hoochie coochie man
前述のように「俺のはデカチン」と誇りを持って叫びましょう。
自信のあるリーダーにみんなは付いていくものです。

On the seventh hour
このパートで繰り返し出てくる「seventh」は発音の難しい単語です。末尾の「th」は濁らない音で、この後の「hour」と繋がる感じで発音します。「v」音もちゃんと出しましょう。

I got seven hundred dollars
「俺は金持ちだぜ」というセリフ。「dollars」は「dɑ'lərz」と喉を開けて発音します。自慢しているので、語気強く発声したいですね。

ポイント8:様々なバージョン

ご本家


ご本家の1970年代のライブ


ご本家のとち狂ったバージョン


The Allman Brothers Bandがアレンジしたもの。グッとロックになっていますね。


力みまくったEric Claptonのバージョン、真似するのならこれがいいかも。


女性版もあります
Little Billie - Hoochie Coochie Woman

Steppenwolfによるカバー、サイケデリック時代を引きずっていますね。
Hoochie Coochie Man

アコースティックバージョン
"Hoochie Coochie Man" - Delta Blues on Resonator Slide Guitar


■歌詞


The gypsy woman told my mother
Before I was born
You got a boy child's comin'
He's gonna be a son of a gun
He gonna make pretty women's
Jump and shout
Then the world wanna know
What this all about

But you know I'm him
Everybody knows I'm him
Well you know I'm the hoochie coochie man
Everybody knows I'm him

I got a black cat bone
I got a mojo too
I got Johnny The Concheroo
I'm gonna mess with you
I'm gonna make you girls
Lead me by my hand
Then the world will know
The hoochie coochie man

But you know I'm him
Everybody knows I'm him
Oh you know I'm the hoochie coochie man
Everybody knows I'm him

On the seventh hour
On the seventh day
On the seventh month
The seven doctors say
He was born for good luck
And that you'll see
I got seven hundred dollars
Don't you mess with me

But you know I'm him
Everybody knows I'm him
Well you know I'm the hoochie coochie man
Everybody knows I'm him


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